9月7日。朝起きると、スマホのカレンダーの通知が鳴った。
大学卒業後、仕事を始めてから、いつの間にか、手書きのスケジュール手帳は卒業してしまって、仕事の予定もプライベートの予定も、全てスマホのカレンダーに入っている。
「在宅勤務」と一緒に、「婚約記念日♡」の通知が。
「あぁ、そういえば今日だった」と思い出した。

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そう、私は婚約したことがある。その証に、ハートの形をしたピアスとネックレスのセットは、メルカリには出品できず、身に着けることもできず、引き出しの奥にしまってある。婚約指輪のお金は節約して、一緒に素敵な結婚指輪を買おうという話もしていたっけ。
その彼と別れてから、長らく連絡を取っていなかったのに、彼から連絡が来ても私は無視をしていたのに、「そういえば今日は9月7日だね。もう会うことも連絡をとることもないと思うけど。ありがとう」と急にメッセージを送った。
毎年繰り返しの設定になっている、「婚約記念日♡」の予定をもう削除してしまおうかと
「予定のキャンセル」を押しそうになったけれど、押せなかった。
「未練があるわけではないけれど、残しておこう」と思った。20歳の私が勇気を出して、覚悟を決めて、プロポーズに「はい」と答えた日のことだから。

今まで「結婚しようよ」と言ってくる男の人はいたけれど、きちんと付き合って、真剣に考えて、「この人だ!」と思って、名字が変わる決意までしたのは、9月7日に私にプロポーズしてくれた人だけだ。
婚約記念日から数年以上がたった今日。
結婚の約束をしたその彼とは別れてしまって、その後に付き合ったパートナーとも、つい先日お別れをした。
お付き合いしていたパートナーとは、お互いのことが大好きだったのに、別れた。とても大人な別れ方。勇気がある行動だったと思う。
正直、将来に対する価値観のちょっとしたズレから目を離せば、今この話題と向き合わなければ、もう少し一緒にいられたけれど、私たちは別れを選んだ。

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恋愛でもやもやすると、酔えもしないのに、やけ酒をしてしまう。
私はお酒に強い体質だから、正直1~2杯飲んだくらいでは顔も赤くならないし、気持ちよくほろ酔いできるだけだ。
たまにお酒に強い体質だと、女の子として可愛くないなぁと思うこともある。
「やばい、酔っちゃった」と意中の男性にもたれかかって、看病をしてもらうことも、家まで送ってもらったことも、思いがけず終電を逃してホテルで一夜を明かしたこともない。
お酒に強いおかげで、大学生の頃は飲み会で、お酒を飲まされて、酔いつぶれて、記憶をなくすといった失態は犯していない。

逆に言えば、私はまだ私の限界を知らない。
ヨーロッパに留学していた頃、初めて1Lのビールグラスを2杯も飲んだ時は、さすがに「自分大丈夫かな、家に帰れるかな」と思ったけれど、記憶をなくすことも、吐くこともなく、きちんと家まで帰った。一人で。
ただ、今回の大人な別れの後、やけ酒はしないでおいた。私、ちょっと成長した。
代わりに、大学生の頃よく陥っていたグレーな関係性に足を踏み入れた。
私の心は、またすぐに誰かを好きになれる状態ではないけれど、身体を重ねることで求められていると感じること、快感を得ることはやっぱりやめられないから。

洗面所の電気だけがついている、薄暗い天井を見つめながら、ベッドの上で、彼氏ではない男性と身体を重ねる。
「あぁやっぱり私って悪い女。男のせいでできた心の傷は男で埋めるしかできないんだ」と思った。
お互い好きだったのに別れるという大人な恋愛に終止符を打った、約2週間後。
私は、まだよく知らない男とセフレになった。
お互い望んでセフレになった。話すのは楽しかったし、相性は良かった。
「恋人がいないなら、セフレいても全然いいと思うけどね」と相手は言った。
まだよく知らない男なのに、過去の恋愛の話もしてしまったし、何でも素直に言った。全く気を遣わなかった。

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彼氏ではない男性と身体を重ねることは、初めてではない。
若い思春期の頃に大好きになった男性に、彼の性的欲求を満たす道具代わりに大事に愛されて、体の関係を持ったことで、私の恋愛観はかなり歪んでると思う。
「好き」という恋愛感情と「セックス」が密接な関係にある。逆に言えば、「好き」という恋愛がなくても、「セックス」の気持ちよさを知ってしまったから、単にその快感だけを得たい気持ちにもなる。
プラトニックな恋愛をしたこともあるけれど、結局は「この人のことが好き」という感情だけでは、私の恋愛関係は続かなくて、「自分の欲求を素直にさらけ出せるか、身体を重ねたときの相性がいいか」も同じくらい重視してしまう。

「恥じるべき」ことだと思って、必死に隠そうとしていたけれど、ここ1年間くらいで、私は、そんな自分をすべて受け入れた。
私だって気持ちよくなりたいし、誰かをまた本気で好きになりたい。
若気の至りの象徴であるかのように、20歳で婚約をした勇気も、「将来一緒に過ごす相手」について考え始める20代前半で、大好きな人とあえて別れた勇気も、大事だった。
ただ、今は少しだけ、遊びたい。
自分の欲求を隠さずに生きたい。心のむくままに。