何気なく言われた言葉だけれど、今でも忘れられないひとことがある。
高校3年生の冬休みのことである。
英語の集中講座を受けるため、冬休み期間中も学校に行っていた。大学入試が目前に迫り、とにかく毎日勉強に追われる日々を過ごしていた。
夏休み前にはあんなに厳しいことを言っていた先生たちが、冬休みになるとどこか優しい。受験を控えデリケートになっている私たちを気遣ってくれているのだろう。先生たちが、私たちの顔色を伺いながら話しているのが伝わってくる。
私は「もっと追い込むようなことをズバッと言ってくれた方が、私は勉強頑張れるのに」なんてわがままなことを思っていた。

月曜日、いつものように学校に向かっていると、携帯に連絡が入った。それは、いつも一緒にその講座を受けている友達からだった。「今日は塾で勉強するから講座休むね」というメッセージを見て、私は帰りたくなった。友達が休むなら、私も休みたくなった。講座を受けるよりも、自分のペースで自習をしたほうが良いかもしれないと一瞬思った。
しかし、塾に通っていない私は、これを休んでしまったら、勉強を教えてくれる先生はいない。仕方なく学校へとまた歩き始めた。私も今日休んじゃおうかと後ろに引っ張られそうになるが、踏ん張って前へと足を運んだ。

これだから自分はダメなんだと自己嫌悪する私に届いた先生の言葉

教室に入ると、この前よりも人数が減っているようだった。きっとみんな休んでいても塾へ行っていたり、自習していたりするんだろうなと思った。私はこのままで大丈夫なのかと不安になった。
自分はみんなよりも頑張れていないように感じ、そんな自分が嫌になった。ネガティブな感情がたくさん湧いてきて、貴重な勉強の意欲を削いでいく。こんなんだから自分はダメなんだと思い、自己嫌悪のループにはまった。
しばらくして先生が教室に入ってきて、出欠を取り始めた。そして、まだ授業を始めていないのに、「みんなは今日ここに来て頑張っているね」と言った。励まそうと気を遣っている感じもなく、何気なく普通のトーンで言われた言葉が、久しぶりのような気がして新鮮だった。
まだ何もしていないのに、どうして先生がそう言ったのかわからず、最初私には理解できなかった。
すると先生は、「月曜日にこんな朝早く起きて学校に行くのって結構大変だよね。ひと踏ん張り必要だよね。心のギアを入れないといけないけれど、みんなはそのギアを入れて頑張っている。」と言った。
その言葉を聞いて、私はハッとさせられた。

周りと比べて自分を否定してばかりだったけど、私は今日頑張ったのだ

私は自分を否定してばかりだった。周りと比べてばかりで、自分がしていることではなく、周りがしていることばかり気にしていた。
しかし、その先生の言葉を聞いて気がついたのである。
周りがどうしていようと、私は今日心のギアを入れて頑張ったのだ。思わず帰りたくなったところを、帰らずに学校へ行ったのだ。私はさっきまで、そんな自分をどこかへ忘れて、周りと比べて不安になっていたのだ。

先生の言葉を聞いて、もっと自分のことに目を向けようと思った。そして、自分の頑張りを褒めてあげようと思った。自分の頑張りに気がついたことで、心が前向きになった。もっとギアを入れられる気がした。

頑張れた自分に気付くことで、心のギアをアップグレードする

それからは、自分は今日何を頑張っただろうとその日1日を振り返るようになった。自分を改めて見つめることで、忘れかけていた自分を思い出す。今日あの時の自分は、心のギアを入れて頑張ったということに気がつく。
どんなことでもいい。頑張れた自分に気がつくことで、もっと頑張れる力が湧いてくる。
そうして日々、心のギアがアップグレードしていくのである。
日々過ごしているなかで、つらいことや苦しいことは起きてしまう。
そんな時には、心のギアを入れてみようと思う。そして、アップグレードしたギアを備えた私は、また明日も強く生きる。