わたしは、ときどき彼氏が怖い。
それを、ずっと胸に秘めている。

普段は優しいけど、ふとした瞬間に恐怖が募る。
怒鳴られるわけではない。
手を出されるわけでもない。
なのに、雰囲気とか言い方が怖くて萎縮してしまう。

例えば、彼の発言に矛盾があったある日。
時系列で「何をして遊んでいた」と話してくれた。
ただ、なんだかおかしなタイムラグがあった。
特に何かを疑ったわけではない。
ただ、単純に疑問を感じて尋ねると「気に入らんの?」と言われた。
その一言が怖かった。

◎          ◎

彼の部屋の物の配置が、大きく変わっていたこともあった。
どうして変えたのか聞くと、「説明するのが面倒くさい。俺ん家や、ここは」と返ってきた。
確かにここは彼の家だが、物の配置を変えた理由を説明するのが面倒くさいと感じるほど、わたしたちの関係は淡白なものなんだろうか。
それすら話すのが面倒臭いと思われていることと、それを直接わたしに言える彼が怖いと思った。

彼がバスタオルを用意してくれていたある日、わたしはそれを肩に引っ掛けたままお風呂場を後にしてしまった。
そして、わたしの後に入った彼が、お風呂から上がるまでにバスタオルを渡しに行かなくてはいけなかったのに、忘れてしまった。
気づいた時には、もう遅かった。
「ごめんねごめんね」と謝りながら渡しに行ったら、「バスタオル持って行くんなら俺のもくれよ、もう遅いわ」と言われてしまった。
確かに、わたしが悪かった。それは間違いないけれど、謝っているのだから、それくらい許して欲しかった。
その日はわたしの誕生日だった。

◎          ◎

わたしは以前、知人の車に乗っていた時に、運転手の機嫌を損ね、ものすごく荒い運転をされたことがある。
それと、同じことをされるのは嫌だと彼に伝えたら、「車は持ってないから、同じことをするとしたら腕を掴んで引き摺り回すとかだと思うけど、絶対にしないって約束はできない」と言われた。
え……そんなことある??
腕を掴んで引き摺り回したりしないって、それぐらい約束してよ!
そう思ったが、声にならなかった。

職場で、棚が落ちてきたことがあった。
その棚は、わたしの頭に直撃。
状況と合わせて、本当に痛いからしばらく頭を撫でないでほしいとLINEで伝えたら、「わかった(笑)」と返ってきた。
何を笑うことがあるんだろう。何が面白いんだろう。
「大丈夫?」と心配するのが普通の反応じゃないだろうか。
わたしを心配する言葉もなく、笑える彼が怖かった。

わたしの友達でDVを受けていた子は、「彼が手を出した後は謝ってくれるし、とても優しい」と言っていた。
アメとムチを使い分けられ、飼い慣らされ、洗脳されていた。
そういう意味では、わたしと彼の関係も変わらない。
普段の彼は優しいし、わたしはアメとムチで飼い慣らされている。

◎          ◎

DVの素質があるんだと思う。
怖いのに、わたしはそれを彼に伝えることができない。
それを伝えることで、彼はもっと怒るかもしれない。もっと機嫌を悪くするかもしれないと思う。
ここまではDVと同じ。
だけど、彼は語気を荒げたことはないし、手を出したこともない。
彼が悪いことをしているのか、と聞かれたらNOだ。
だから、まだ予備軍かなと思う。

わたしが彼に対して恐怖を感じているなんて、彼はきっと微塵も思っていない。
伝えたところで改善しないから、わたしは彼と別れるまで、それを隠し通すと思う。
「彼が変わってくれるかも」そんな淡い期待はとっくの昔に失くしてしまった。
だけど、「無期限で好き」と言ってくれる彼と、まだもう少しだけ一緒にいたいから……。
今日も恐怖を押し殺す。