ひとりで生きる練習をしていた。
厳密には、「ひとりで生きる練習をする」という目的で1ヶ月ほど、健康で文化的な最低限度の生活、プラスアルファで娯楽を享受する生活を送っていたことがある。
事の発端は当時お付き合いをしていた彼が、明らかに冷めた態度をわたしに取ってきたことだった。

復縁の形で付き合い始めて2度目の別れ話に、距離を置く選択をした

「わたしのこと、どう思っているの?」
と問いただした時に、
「好きかどうかわからない」
という答えが返ってきたのである。
ちなみに彼とは1度お別れをしていた。
復縁という形で2度目のお付き合いをして、1年経つかどうか、という頃だったと思う。
季節で言うなら、秋。

ひとりになることが、ほんの少しだけ、不安になる季節。
1度目のお別れの時も彼から別れを切り出されたのだが、その時は、かなり、粘った。
別れないと言い張った。
だからこそ、今回は絶対にそうしないと決めていた。
「前に同じようになった時に、すごく辛くて苦しかったから、同じことはしない。わたしはあなたが好きだけれど、好きかどうかわからないと思われている相手と、もう2度と一緒に居続けることはできない。だから、このまま付き合ってもいいのか、別れるのか、あなたが決めて」
と告げた。

彼は「今すぐには決められない」と俯いて言った。
あぁそうですか、この意気地無し、と正直思った。だが、それが彼だった。
そしてわたしは、彼のそんなところも好きだった。
「じゃあ、距離を置こうか。1ヶ月、離れて暮らそう。それから答えを決めて」
そう告げてわたしは、半同棲していた彼のマンションを出て、空っぽの自宅に戻った。

「ひとりでも生きていけるように」とたくさんのことに挑戦した1ヶ月

別れたくない。けれど、別れても生きていかなければならない。
たったひとりで。
だから決めたのだ。
この1ヶ月、ひとりでも生きていけるように練習をしなければならない。

まず、アルバイトを頑張った。
自分と関わってくれる人がいるということがありがたくて、ひとりじゃないことに安心した。
それから、友人と2人でお酒を飲みに行った。
「男なんて星の数ほどいる!」とありきたりな励ましをしてくれて、一緒になって泣いてくれた。嬉しかった。
そして、泣くと、わりとスッキリする。

カラオケに行った。
友人とも行ったが、もちろんひとりでも行った。
カラオケは元々好きだったが、やはり大きな声を出すと、もやもやと自分の中に溜まったなにかも一緒に発散されていく。
アニメを見た。
前からアニメは好きだったが、一気見するとなんか気が晴れる、気がした。
YouTubeも見漁った。
チャンネル登録をしているYouTuberがこぞってプロポーズだの子どもが産まれただの、幸せな動画ばっかり投稿していて、また泣いた。
タバコを吸った。
今までも半年に一箱いくかいかないかくらいのペースでは吸っていた。
けれど、傷心で吸うタバコはなぜか、ひどく沁みた。
ゲームを買った。
流行りのNintendo Switchに、あつまれどうぶつの森である。
果てしなく時間を溶かした。
何も考えなくて良い時間は、それだけでありがたかった。

とにかく運動もした。
毎日決まった時間に、準備運動と運動後のストレッチも含めて30分程度の簡単なものだった。
でも、かなり良かった。
血が巡ること、汗をかくこと、物理的にも精神的にもデトックスになる。

それ以外には散歩をした。
意味もなく好きな音楽を聴きながらふらふらと歩く。
ひとりでふらっとカフェに入ったりして、コーヒーを頼んで、ゆっくりする。
そういえば、常に何かしら音楽をBGMにすることは、彼が教えてくれたことだった。
ふらふらと散歩することも。
ひとりで探索をすること、カフェに入ってみること、コーヒーを飲むこと。
彼の行動はもはや、わたしの一部となっていた。

彼のことを思い出して泣くこともあったけど、私はちゃんと生きていた

そうして、ひとりで生きる練習をして1ヶ月が経った。
彼の顔を見たら、「あぁ今からフラれるなあ」ということがよくわかった。
でも、わたしは大丈夫だって信じていた。
だって、ひとりで生きる練習、ちゃんと頑張ったもん。

彼と別れて半年は、ちゃんとひとりを楽しんだ。
ひとりで遊びに出かけたし、旅行もした。
お家でアニメや小説を読んだり、音楽を聞いたりした。
たまにちゃんと病んで、やけ酒もやけ食いもした。
もちろん、彼のことを思い出して、まだ好きで、何度も泣いた。
でも、ひとりでも、ちゃんと生きていた。

そして結局半年後にまた復縁して、現在遠距離恋愛中であるという話は、また今度にして。
今は基本、彼がいない生活が中心である。
ひとりの時間の方が圧倒的に多い。
わたしは、ひとりで散歩ができるようになったし、ひとりで映画館に行くようになったし、ひとりカフェはもちろん、ひとり回転寿司、ひとりラーメン、ひとりで大概のことができるようになった。

そして、それを心から楽しめるようになった。
ひとりで楽しむことが、幸せだと感じられるようになった。
だから思うのだ。
あなたがいない世界にひとりでも、わたしは生きていけるし、幸せになれる。そう確信している。
でもね、あなたがいたらもっと幸せだし、生きていきたいなって、「ひとりの時間」に考える。
そんな時間も悪くないと思えている。
次にやりたいのは、ひとり焼肉を堪能すること、かな。