SNSを始めたのは、ほんのちょっとしたきっかけ。
他の人と自分の“好き”をシェアしたかったから。
好きな食べ物、好きな季節、好きなドラマ、好きなキャラクター…。
みんなで“好き”を分かち合えるなんてとても素敵だと思った。
そんな些細なことがきっかけだったのに、私はそこで「もう一人の私」を見つけた。

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私が初めに作ったアカウントはいわゆる推し活をするためだった。
「あのシーンいいよね!」とか「あのポーズかっこいい!」とかSNSの中でお互いの“好き”が垣間見えるのが好きだった。

最初は「知らない人とおしゃべりするなんて無理…」と思っていた私もたくさんの仲間に囲まれて、推しについて語るようになった。日常生活では自分の推しについて語ったことがなかった私にとって、ここでの会話はとても新鮮だった。
「好きって言っていいんだ!」
「ここでなら自分の気持ちを伝えても平気なんだ!」
普段の生活では経験することがなかった世界が、そこには広がっていた。

そして「もう一人の私」を見つけたのもそこでの会話からだった。

ここでは推し活以外の話もたくさんした。
美味しいものを食べたとか、観光地に行ってきたとか、小説の新刊が出たとか、そんな話もする。
そんな中で私はある投稿を見つけた。

「好きになってはいけない人を好きになってしまった」

この文章を見たとき、ギクリとした。
まるで心が見透かされたような気がした。
投稿していたのは私とよく話をする子。推しの話しかしてこなかったせいか、あの子がこんな投稿をするとは夢にも思わなかった。

あの投稿を見たときの私も好きな人のことについて悩んでいて、誰にも言うことができなかった。でもあの投稿を見て、同じ痛みが分かる人に出逢ったことに感動した。
そして私はその子の投稿した文章に、このように返信した。

「私にもその気持ちが分かる。私も同じ気持ちを抱いたことがあるから」

初めは「あんな返信しなければよかった…変人だと思われてないかな…」と頭の中が不安でいっぱいだったが、しばらくすると返信が来ていた。

「私一人だけが悩んでいると思っていたけど、そうじゃなかったんだね。ありがとう」

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このことがきっかけで、あの子とは推し活以外の話もするようになった。
今まで誰にも言うことができなかった恋愛の話も、少しずつあの子と話すようになった。
私があの子の相談に乗ったり、時には私がアドバイスをもらったり、色々な話をした。

私はあの子の本当の名前も知らないし、年齢もわからない。自分のことをホイホイ話すのは危険なことは百も承知だ。
でも、きっとあの子は「もう一人の私」なのだ。恋愛が分からず、行動するのも億劫で、何をしたらいいのか分からない。でも好きな人への想いだけは誰にも負けない。本物の気持ちを持つ「もう一人の私」。
今は時期的に忙しくて、あの子とは連絡をあまり取っていないけれど。

あの子は何処にいるのだろうか。
好きな人と幸せになっているのだろうか。
好きな人のことで悩んでいないだろうか。
自分の気持ちを好きな人に伝えられただろうか。

あの子が好きな人と幸せになっていることを心から願う。