私の背中を押してくれたのは、推しがくれた言葉だった。

私には推しがいる。彼は俳優で、そのかたわらでSNSに動画を投稿したり、定期的にライブ配信を行ったりしている。
私が彼を知ったのは、約一年前に何気なくSNSで見た動画がきっかけだった。次から次へ動画をスクロールする中で、偶然巡り合った。その当時は、この人が自分を大きく変えてくれる存在になるなんて思っていなかった。

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私は、中学生の時、人間関係がきっかけで自信を無くしてしまった。それ以来、生きることに意欲的でいられなくなった。
友達が「○○高校に行きたい」「○○大学に行きたい」「将来は○○になりたい」と話している中で、私は明日のことすら想像できなかった。もしかしたら今日死ぬかもしれないのに、数年後の自分のために今を頑張っているみんなが不思議でたまらなかった。
そんな捻くれた私だったからか、やりたいことなんて思いつきもせず、その日課されたことをこなすだけの毎日を送っていた。
ただ、つまらなかった。ただ、生きるのが辛かった。

そんな私は、推しと出会って変わっていった。彼が出演する作品に触れる度、私は非日常を手に入れることができた。このつまらない人生を変える、非現実だ。
彼がきっかけで出会った人たちに愛されることで、自信が持てるようになった。彼が出演したドラマを見て、コピーライターになりたいと思った。明日を考えられなかった私が、やっと将来の夢を見つけることができたのだ。
私に文章を書くのが好きだと気づかせてくれたのも、彼だった。今までの私を忘れてしまいそうなほど、今は刺激的で楽しい毎日を送っている。

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私の推し、本人いわく「人が好き」らしい。だから、ファンの人とコミュニケーションを取るのを大事にしていたいそうだ。彼とはライブ配信のコメントやSNSのダイレクトメッセージでやりとりできるほか、とあるアプリを使って通話をすることができる。私が彼に背中を押されたのは、そのアプリを通して会話をしている時だった。

私は人間関係でトラウマを抱いているため、自分のことを考えるのが苦手だ。その時は就活で忙しい時期で、自分に対する嫌悪感もあった。そのためだったのか、話の流れで、
「面接を受けては『お祈りしてます』なんてメールが届いてさ。自分が世の中に必要じゃないことは、自分が一番よくわかってんのにそうやって言われてさ。でもあなたは必要だって言ってくれるじゃん?だから、あなたが必要としてくれる自分でいたいの。必要とされる場所でぐらい、一番の自分でいたい」
と言ってしまった。
今、改めて見ると、推しになんてことを話しているんだろうと思う。まぁでも、当時はそれぐらい余裕がなかっただとか、彼に気を許しすぎただとか、理由はいろいろあったのだろう。

そんな切羽詰まった私はさておき、彼は間髪入れず、
「めちゃくちゃ嬉しいけど、俺ばっかになると自分壊れちゃうと思うんで。あなたはあなたらしくいればいいんだよ」
と言った。大事なのは、その後だった。彼が、
「絶対その方が、生きてて楽しいよ!」
と言った。まるで後ろから頭を殴られたかのような衝撃がした。

私はずっと「生きることは辛いこと」だと思っていた。だから、「生きることを楽しくしよう」と思ったことすらなかった。
その後も彼は、
「楽しいことをして生きていたいわけじゃないですか。だから『自分が楽しいことってなんだろう』をとにかく追求した方がいい」
と言った。
彼は私より年上だが、二つしか変わらない。すでに生きる楽しみを知っている彼と、それから目を背け続けた私。「どうしてこんなに違うのだろう」と不思議に思う気持ちと一緒に、「私は今までの人生で一体、何をしてきたのだろう」とやるせない気持ちを抱いた。

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それから私は、いろんな場面であの言葉を思い返すようになった。
就活で自信を無くしたとき、夢に立ち向かう勇気が無くなりそうなとき、どうして生きているのかわからなくなったとき……あの言葉と一緒に思い出される明るい笑顔が、大好きな声が、後ろを向こうとする私の背中を押してくれていた。

つまらなかった人生が色付いて、やっと気づいた。
私は言葉が好きだ。こうして書くのが好きだ。だからこの先、どんな形になったとしても、よりよい言葉を紡いでいきたいと思う。

きっとその方が、生きてて楽しいから。