多いんだか、少ないんだか分からない私のいくつかの恋のなかには、「教訓が詰まった」と言えるものが2つある。
私のことだから、本当はどの恋にも複数個の教訓はありそうだが、まあ、いちいち数えない。ただ、それらは主成分が教訓なのではないかと思うくらい、飛び抜けている。

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1つ目は、初めてお付き合いをした人との恋。これはあまりにも初歩的な教訓が多すぎて、目も当てられないので、この度は割愛させていただく。
2つ目は、初めて沼った人との恋。「沼る」は今や多用され、異性、同性、芸能人、食べ物など様々な対象に使われるのだろうが、私にとっての「沼る」は、まず相手に私への気持ちが無いからこそ起こる現象である。よって、彼氏には沼らない。
そして両思いになれないことが分かれば、諦めが悪い私もどこかの段階で見切りをつけ、次の恋を探すのがそれまでの恋であった。
そもそも、気持ちがない人は何度も相手から近寄ってこない。むしろ遠のいていくから、私が見切りをつける前に目の前からいなくなることもある。
ただ、彼は絶妙に私への気持ちがありそうに振る舞うし、何度も彼から近寄ってもきた。
その結果、私は足掻きに足掻いてしまったわけだ。そんな私の教訓を、個人的に重要だと思うもの3つ、ここに記したい。

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1つ目は「目が綺麗なことと心が綺麗なこと、そして私への態度は関係がない」だ。
彼は、私が出会ってきた人のなかで1番、目が綺麗だった。瞳の色はグレーにも見えるブラウンでキラキラしていて、白目は透き通っていた。まつ毛と涙袋の曲線もとても綺麗。
彼と知り合ってすぐそれに気づいた私は、彼はきっと心が綺麗なんだろうな、と思った。徐々に彼の冷たさ、横暴さを知っていくのだが、それでも「どこかに綺麗な部分があるのではないか」「心が綺麗だからこそ、器用に振る舞えず、思うままに動いているのではないか」と戯けたことを考え出す始末。
そうやって1%の純粋と期待を探し続け、そして彼も血の通った人間なので探せば一応見つかるわけで、見つけた1%にスポットライトを当てては胸をときめかせた。
実際、彼は心が綺麗なわけではないと今なら思える。と言い切ったあとに、少しもやもやが残るのは、心のどこかで未だにあの綺麗な瞳を信じてしまっているからなのかもしれない。恐ろしや。

彼の出身は北海道なのだが、調べてみると北海道や東北出身の方のなかには、目の色素が薄くライトブラウンやブルーに近い色の瞳をした方が結構いるみたいなのだ。
目の綺麗さと心の綺麗さは関係ない。たとえ関係があったとして、その綺麗な部分を全ての人に注ぐとも限らない。
鬱陶しい人、興味がない人には、いくら心が綺麗な人でも全力の優しさを持って接しはしないだろう。彼の綺麗な目が、宝物を愛でるような目に変わるその先に、いつだって私がいないことは明白だったはずなのに。
最後にもう一度。目の綺麗さと心の綺麗さは関係がないし、たとえ心が綺麗だったとして、それが私への態度に反映されるわけではない。大切に扱われていない私には関係がない。彼の心の綺麗さを探す旅に出るな。

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2つ目は「SNSのアカウントはすぐ知られてはならない」である。
最初のデートの終盤に、彼からInstagramのアカウントを聞かれた。ううん、私が彼と相互フォローの関係になりたくて聞かれるよう仕向けた。
次の日から、私のInstagramのストーリーや投稿は彼のためのものになった。彼の目だけを常に意識して、彼へ私が伝えたいことを発信する場になったのだ。
今日飲んだスタバの新作、彼に教えてもらってチェックするようになった競馬の番組を観た休日のこと、今日買った可愛いワンピース、手作りの肉じゃが……。最近の私を知ってもらいたくて、彼が私のInstagramの投稿を見るようになってから、私はそれまでの何倍もの頻度で更新をするようになった。
あまり自分の日常の全てを曝け出さないほうがモテることも、長文を書くと良くないことも、インターネットで見た恋愛テクニックに関する記事で知ってはいたけれど、それでも美味しそうなグラタンを作れた日には、彼に料理できるアピールがしたくて投稿したし、飲み会の日は偶然近くで飲んでいる彼から電話がかかってくることを期待して、乾杯動画を投稿をした。
たまに彼からの反応もあり嬉しかったのもある。だが、投稿をすればするほど彼の気持ちはますます私に向かなくなっていったのだろう。
おそらく頭で分かっていても、また同じ過ちを繰り返すに違いないから、そもそもSNSのアカウントを教えない。2人の両思いが揺るがない確定ゾーンに入るまで、死守しろ。

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3つ目は「トントン拍子に行かない恋愛は攻め込まない」だ。
いいか。相手が1%でも私のことを気になっているのなら、次会う予定もリスケもトントン拍子に決まるはずなんだよ。忙しいを理由になかなか予定が決まらないことも、急にLINEの返信が来なくなることも、都合の悪いことを「ごめん、聞いてなかった」ではぐらかされて大切なことだけ話が進まないこともない。どんなに彼が気がありそうな素振りをしても、実際、肝心なことが何故かトントン拍子に進まないなら、それは期待できない状態ということだ。
もう少し頑張れば落ちるかもと、矢継ぎ早に攻め込むな。

本物の沼にはまったときは、落ち着いて仰向けになるのがいいのだそう。
体重がかかる面積を大きくすることで沈み込むスピードが遅くなる。焦って不要に動くと、泥が柔らかくなり余計に沈み込んでしまうらしい。
私は沼ること自体回避したいわけじゃない、ということもあの恋で学んだ。
思わせぶりな態度に振り回されて、見切りをつけるにつけられない恋も結構楽しい。
ただ、限度がある。あの時の私は、足掻きに足掻きすぎて、たぶん彼の周りの友達まで引いていた。私も振り返って、自分に少し引いている。
いい塩梅で沼りたい。そのためにはあの恋で得た教訓を次に活かさねばならない。
限度を超えそうになった時は、落ち着いて仰向けになり寝よう。
1%の可能性に賭けた旅にも出ず、SNSも更新せず、攻め込まず。スマホを放り投げて寝るのがいちばん!