彼が久しぶりに私の住んでいる町に来た。
3日間滞在で、中日のその晩は少し時間があり、彼がお土産にくれた栗を渋皮煮にする手仕事を一緒にしていた。私は、母から送ってもらった渋皮煮のレシピをスマホで見ながら、重曹で茹でたり、洗ったりの作業をする。彼は栗ご飯用の栗を剥く作業をしていた。

母の手伝いはしたことがあったが、自分で栗の手仕事をするのは初めて。秋の訪れを感じつつ、彼との何気ない時間が流れていた。
2回ほど栗を茹でては洗いを繰り返し、次は味付けをする最終段階の煮詰めになりそうだと、砂糖や醤油の量を確認するためにスマホを開いた。そこには、別れて4年半経った元彼からの連絡が届いていた。
私は呆然とするとともに、断片的な当時の記憶が少しだけ蘇ってきた。

◎          ◎

その元彼とは高校2年の時に付き合っていた。
仲良くなったきっかけは、秋に行った修学旅行。私にとっての元彼の存在は、私の親友にとって少し憧れの男友達の友達であった。そのこともあり、そのメンバーを含めた合計6人で修学旅行中に一緒に過ごす時も多かった。夜は担任にバレないようにその男子たちの部屋に行ってトランプをする日もあり、私は友達として純粋に楽しんでいた。

一方で元彼は修学旅行前から私に好意を持ってくれていたらしく、旅行中も服を貸してくれるなど親切にしてくれていた。また旅行中に一緒に撮った写真を送り合うためにLINEを交換した。

無事に修学旅行から帰宅した日の夜、元彼がLINEで告白をしてくれた。私は好きだなという実感はなかったものの以前からどこか少し気になっていたため、一晩悩んだ末付き合うことにした。

付き合ってからはLINEで連絡を取ったり、朝や放課後に話したり。周りにもすぐにバレたため、それまでと変わらずグループで過ごすことも多かった。お互い初めての付き合いで相手とはどう接するべきなのかとか、何が相手にとって嫌なことになるのかを考えることや話すことはなかった。

私は元々男女関わらず誰とでも仲良くするタイプであり、妹キャラであることもあってか異性から好かれやすい。ただ、高校生の頃はそのような自覚がなく、勘違いを生みやすい行動もよくとっていた。彼ができてからも男友達との距離感を、これまで通りのままで過ごしていた。そのことが原因であったのか、クリスマスごろから元彼とすれ違うようになり、付き合いは自然消滅となった。

◎          ◎

4年半ぶりの連絡の内容は、自分勝手に何も相談せずに別れてごめんというものであった。原因としては、元彼が受験や恋愛で悩んでいたからとのことで、私は悪くないと書いてあった。

別れた原因がわかり少しスッキリできそうな話だが、今更何を言っているのだというやるせない気持ちと、私も別れた原因を十分引き起こしていたのではと改めて自覚した。

別れてからの高校生活では元彼のことをずっと引きずっていたが、今は新しい恋に進み3年以上が経つ。また今となって考えると、付き合っていた当時、誠実に向き合えていなかった自覚は大いにある。そこで学んだことを今の恋に生かしているという実感が強いからそのように受け止めたのだと思う。

しかし、元彼は過去の謝罪をすることで、スッキリと前に進むために連絡をしてきたのだろうと考えた。そのため返信としては、もう気にしてないから大丈夫だと送っておいた。感謝の気持ちも添えて。

今の彼がいる限り、元彼をまた好きになることは絶対にないけれども、返信によって少しでも元彼のためになることを願って。

◎          ◎

彼には、高校の時の元彼がいて、振られたってことくらいしか話したことがなかった。今回のLINEを受け取りどう感じたかをどうしても話したくて、これまでの経緯をかいつまんで聞いてもらった。このことで私はようやくある程度スッキリとすることができ、彼には感謝しかないと実感した。

彼にも私の振る舞いで心配をかけることはあったけれども、あの時の恋愛での失敗から学べたことは私にとってよかったなと、彼と手を繋ぎながら歩いている道中にふと思った。