私が、今までの人生で一番勇気を振り絞ったことは、新卒で働いていた職場を辞めたことだ。

大学4年の初夏。私は、第一志望にしていた場所から不採用通知をもらい、次の面接先を探していた。そこで大学の先生に紹介された場所が、のちにお世話になることになる職場だった。自分のやってみたいことや興味のある分野が揃っていて、大変だろうけど自分の学びとなる場所だと思った私は、足を踏み入れた。

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緊張で冷や汗をかいて、体をガクガクと震わせながら、なんとか乗り切った採用面接。しっかり面接官とのキャッチボールができていたはずだと自分に言い聞かせ、結果発表を待った。ドキドキしながら開いた採用ページ。スクロールした先には、見事、私の受験番号が記されていた。
就職先を決められた安堵と、1年弱先に待っている未来に胸を躍らせながら、残りの大学生活を過ごした。

期待と不安で落ち着きがないまま迎えた入社式。自分の興味のある分野を希望所属部署として提出していた。入社式も終盤に差し掛かった頃、自分の所属が発表された。
結果は、第3希望。確かに希望には沿っていたが、自分の中では第2希望までと第3希望とでは雲泥の差があった。正直、第3希望に何を書いたのか、今でも思い出せないほどだ。
採用担当は、どの社員も第3希望までに沿うように所属を考えたと言っていた。しかし、第3希望まで書かなければならなかったために埋めた欄であった私は、ふわふわとした気持ちのままその日を終えた。

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月日は流れて、部署に配属されてから数ヶ月が経った。未だ仕事には慣れない。自分は未熟者だと感じる瞬間ばかりで、休みの日もリフレッシュなんて到底できるわけがない。疲れは溜まっていき、できない自分がさらに悔しくさせる。1年が経とうとしているまで時間が過ぎていっても、その思いは拭えなかった。
あまり明るくない私の性格。成長しないスキル。見かねた先輩が度々私に声をかける。その度に私は自分を責め、涙が止まらなくなった。
いくら先輩に「頑張ろう」と声をかけられても、「元気?」と声をかけられても、空元気を演じるしかなかった。
仕事から帰っても、開放されるのはベッドに入って眠る時間までの数時間。夜が明ければまた、自分が底辺にいると思い知らされながら仕事をするのだ、と現実を突きつけられ、その度に浮かぶ言葉は「もう逃げたい」だった。

毎日耐えながら仕事をしていたある日、メールチェックをしていると、とあるメールが目に入る。
「以前、退職希望を出していた職員は面接をします」という趣旨のメールだった。
私は、退職の意思は出していなかったが、このころにはすでに職場を辞める以外の選択肢はなかった。そのため、上司がいるタイミングを伺って、メールを送ることにした。

直接上司に声をかけなかったのは、そこまでの勇気が出なかったから。
メールでないと自分の意思は性格に伝えられない、人と話せば泣けてきてうまく話せないからだ。
そして上司から返信をもらい、面談の予定を組んでもらった。

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話した内容は、「今年いっぱいで辞めたい」ということ。
基本的に年度以外の退職は認められない、と言われたものの、日に日に冴えない雰囲気を漂わせていた私を見かねた上司は、休職の選択肢をくれた。
今すぐ状況を変えたいと思った私は、その提案を受け入れることにして仕事を休んだ。
そのまま復帰することなく、年度末に退職の手続きを取ったのだ。

ここにいたるまで、自分の中で数え切れない葛藤があった。
自分の意見は誰にも理解されない感情からできているため、わかってもらえないかもしれない。
辞める方法を検索すると、引き止めに合うとばかり書かれているため、自分もそうなるのではないか。
今ここで仕事をやめて後悔はしないか。
多くの懸念を頭がぐるぐると回っていた。
しかし、一番つらいのは、仕事で経験した苦しさが永遠と続くこと。そこから逃れられるなら、辞めることが最善の選択肢なのだと思った。そして、退職する意思を上司に再度伝えた。

この瞬間が、今までのなかで最も緊張し、何度も言葉を飲み込みそうになった。
だが今は、退職という選択をしたことに後悔はしていない。
新しく始めた生活は、自分が納得できるように考えた過ごし方だ。
いろいろ悩ませられることはあるものの、これまでの私とでは比にならないくらい軽くなった。

人生を変えることとなった大きな選択。決断。
勇気を振り絞って、私は良かったと思う。