1番大好きな土曜日の午前。コーヒーミルクを飲みながら、ゆったり音楽を聴いたり読書したりする時間が、私の最も癒されるひととき。

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眩しい通勤列車で無駄に新鮮な気持ちを抱えて迎える月曜。いよいよ本腰の火曜。今夜は諦めて終電コースと腹を括る水曜。転職しかけた近所のクリニックが休診日の木曜。どんな不幸も受け入れられる念願の金曜。

ボロボロのボートで泥沼の中を漕ぎ続け、必死で辿り着いたような金曜。「あとはもう来週……」と諦めて、ヘトヘトな足取りと脱力の表情で終電のホームへ。
帰宅すると、顔と足だけ洗って寝床へバタンキュー。枕にフェイスタオルを引いて、泥のように眠る。

翌朝、土曜の午前。普段なら、前日に入れなかったお風呂にゆっくり浸かり、平日に職場で着けてきた汚れを拭い切るように家中を掃除する。
午後は何をしようかな……。そう考えるだけでも楽しい至福の時間。

しかしその日は、LINEのメッセージ受信音が静かな部屋に鳴り響いた。
反射的にアプリを開くと、「WEB修正して。社長の講演資料対応」と、部長からの仕事依頼だった。
依頼というより、雑すぎる命令。これが休日の人間に頼み事をする態度か?生理前でもないのに、一瞬にして私は怒りの頂点に達した。私の土曜日をぶち壊したな……?

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私の部署は土曜勤務を交代制で回している。でも、部長は普段この当番制には参加しておらず、部署で唯一、毎週土日休みを満喫していた。 しかし、この日は接待があったらしく、珍しく部長が出勤していた。
部長は部内の仕事を把握しておらず、簡単なWEB更新やルーティン作業すら一切できない。つまり、その土曜に他部署や外部からきた依頼は、部長1人では何も対応できないのである。

私はLINEを見た瞬間、カチンときた。休日の私が普段の如く部長の言いなりになって、何でも魔法のように叶えてやれるとでも思ったか?調子に乗るな。

しかし、私は30秒後にこう返信していた。
「承知致しました。確認いたします」
私が対応しなかったら、いつもお世話になっている他のメンバーに指示がいくだろう。
それを避けたくて、私が対応するのが最善だと判断したのだ。

パソコンを立ち上げ、2時間ほど立ったまま作業した。至福の休日を部長の無能さゆえの仕事に費やしていることが悔しすぎて、泣けてきた。このパソコンの角を、憎らしい奴の顔面に投げつけたくなった。
私は器が小さすぎるのだろうか……。ポロポロ涙が頬を伝い、本棚の上に慌てて広げたキーボードに落っこちた。

1秒でも無駄にしたくない、愛おしい土曜の時間を返せ……。私なら必ず対応するだろうと踏んで連絡してきたいやらしい根性も許せない。見透かされているようで、腹が立つ。
憎らしい上司とその指示をスルーする勇気のない弱い自分が情けなくなった、悔し泣きの土曜日。