私はどうも友人をつくるのが苦手なようだ。
それに気が付いたのは高校に入学して五日目のことである。

帰りの電車でSNSを見ていると、先ほどSNSを交換したクラスメイトAが早速投稿をしていた。三杯のスイーツドリンクが並んでいる。なんだか嫌な予感がした。奥に置かれているスマホケースに見覚えがあったからである。
私を含む四人で仲良くなり、それなのに私以外の三人で放課後にカフェに行ったということだ。そんなこと一切聞いていなかった。

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この時、入学して四日目だった。クラスの中でもグループ形成が目に見えてくるころだ。この線引きを見失ったり、気付かなかったりすれば、どこのグループにも属せず不安定な立ち位置になる。半泣きになりながら不仲な母親に相談したくらいだ。
実はこれを大学入学でもやらかしている。大抵は入学前にSNSで友人を作るらしいが、SNSのつながりなんて希薄だろうと甘く見ていた私はそれを行わなかったのである。入学式は高校の友人と行ったので困らなかった。

私の大学は学部の中で専攻が細かく分かれている。それが四十人くらいのクラスになっている。四年間変わらないクラスだ。大学にクラスがあるところなんて珍しくないだろうが、なんと九割方の授業をこのクラスで受講する。
私はそれを知らなかった。気付いた時にはグループができており、「こりゃもう一人で乗り切るか……」とも考えたが四年間は果てしない。大学の滞在時間を計算したが半年目あたりまで数えてやめた。
おそらく、最後にクラスLINEに追加されたと思う。そこから並んだアイコンと名前とをにらめっこしてようやくメッセージの送信ができた女子には、一週間前から約束をしていた学食ランチを当日にドタキャンされた。何という仕打ち。

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一人でいることが嫌なのではなく、一人ぼっちだと周りから見られることが何よりも耐えがたい。
不幸中の幸いで四人グループになれた。だが、他の三人に比べてメイクやファッションに疎く、入学当時の写真を見てもわかるが、一言で表すと「芋」なのだ。芋はそんなものに気を配っている場合ではなかった。最初からアクセル全開の大学の授業についていくのが精いっぱいだったので。
二回目にて落単の危機を感じた必修受講の統計学では、授業だけではなく予習と復習をしていた。それをグループメンバーの一人が気付いて「えらいね」と言った。私は自分の不出来を知っていたので謙遜の言葉で返した。
それを聞いていたもう一人のメンバーが「きっしょ」とつぶやいたのを私は聞いた。その言葉を皮切りにグループの空気になった。
本当はもっと前から空気だったのだと思うけれど、グループに属せた安心感からそのあたりが見えていなかった。浮かれていた自分が情けなくて悔しく泣いてしまった。

どうして私はこんなにも人と関わるのが下手くそなのだろう。
またまた不仲な母親に泣きつき、他のグループに行った方が良いという結論を出した。とはいえ入学して一カ月半、かなり強固にグループが形成されている時期。一体どこに割り込めと言うのか。
とりあえず、次の日授業開始四十分前に教室へ一番乗りに到着した。緊張のあまり行きの電車でSNSにその趣旨を投稿した。フォロワーは十数人のちっぽけなアカウントだ。文字にすると気持ちが整理される気がしたのである。
誰からの反応も期待してはいなかったが、一通のメッセージが届いた。

「今のあなたにとってとても勇気のいる行動かもしれないけれど、今日のこの決断がこれから先のあなたを幸せにしてくれますように!がんばれ!」

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いいねを互いに送り合うだけの関係だった人からの励ましだった。顔も素性も何も知らない。年齢も性別も何一つ共通点がない。「SNSのつながりなんて希薄だろうと甘く見ていた」くせに、温かい気持ちになった。

私が到着した十分後に二人組の女の子たちが来た。私は挙動不審に様子を伺い、初めて会話を交わした。「お昼、一緒に食べてもいい?」と聞くとすぐに快諾してくれた二人と仲良くしている。その夜は嬉しくて泣いた。
ある時、「ほら私って後から入ったしさ~」と二人に加わる前のことを自虐交じりに話した。すると、「そんなの全然関係ないよ。気にしてない」と言われたのだった。ずっと私だけがグループだとか〇人組だとかを気にしていたというわけなのだ。

空気だった私が四人グループからいなくなっても、所詮空気なので特に気にも留められなかったが、どことなく気まずさがあった。「きっしょ」と言った子に対して苦手意識を持っていたが、多分、本当に「気色悪さ」があったのだ。
あの瞬間だけを指しているわけではなさそうだった。特に、グループだとかそんなものにこだわっていたところなんかを見抜かれていたんじゃないだろうか。

あの時の自分をみっともないと思えるくらい、今の人間関係に余裕が持てるようになっただけでなく、客観的に自分を見ることができるようになったので、グループから離れる勇気を持てる良い機会をくれたのだと思うと、ちょっとはあの時の私の苦悩が報われる気がする。
よく二人組のところへ行ったな、と今さら思う。でも、あの時の選択は間違っていなかった。