ジルスチュアートにポールアンドジョー、コスメデコルテ。エレガンスにアルビオン……。インスタでよく見かけるデパコスが店頭に並んでいる。
キャップにキラキラしたストーンが散りばめられたリップや、お花のデザインが施されたチークたちが丁寧に並べられていて、見ているだけでうっとりする。あぁ、ものすごくかわいい……。
私はその化粧品売り場を5分ほどうろうろしていた。

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ずっと気になっていたコスメブランドの新作リップ。
私はずっとコスメカウンターで直接化粧品を買うことに興味はあったものの、BAさん(美容部員の方)から接客を受けることや、自分が行って場違いじゃないだろうかとぐるぐる考えてしまって結局買うことを諦めたり、ネットで購入を済ませたりしていた。
だけど今回のリップは好みのデザインでどうしても欲しい。そしてカラーも何種類かあるから発色も気になる。
意を決して、私は人生初のコスメカウンターに足を踏み入れることを決めたのだった。

「いらっしゃいませ、何かお探しですか?」
テラコッタカラーの口元が印象的な綺麗なBAさんが話しかけてきてくれた。

「えっと……。今週発売されたリップが気になって来たんですけど……」
「○○ですね、こちらになります。よろしければお試しになっていかれませんか?」
「それじゃあ、お願いします。ここに来るの初めてで少し緊張してて……」
「そうだったんですね!実際にタッチアップすると印象も変わると思うのでぜひ試していきましょう!」
BAさんはにっこりと微笑んで、私をタッチアップするための席へ案内してくれた。

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背筋を伸ばして、そわそわしている私。
「案内されるがまま来ちゃったけど、大丈夫かな。緊張する……」
ドキドキしながら待っていると、私が気になっていたリップを数本に、同ブランドのアイシャドウやチークなどいくつかの化粧品を持ってBAさんが現れた。

「それでは最初にお客様が手に取られていたこちらのお色から付けさせていただきますね」
「お願いします」
緊張して少し力が入った私の唇にブラシで色がのせられていく。
私のお目当てだった少し落ち着いたシック系のピンク、大人っぽいし素敵な色だなぁ。やっぱりネットで見た通りかわいい色だ。
そんな風に感じながら鏡に映った自分の口元をぽーっと見つめていると、BAさんがもう一本同じシリーズのリップを私の前に見せた。

「お客様、今のお色も大人っぽくて素敵なんですが、こちらもきっと似合うと思います。よろしければ付けさせていただきたいのですか、よろしいですか?」
「それじゃあ、お願いします」
もともと目当てだった色も試せたし、せっかく来たんだから試してみよう、と私は軽い気持ちでお願いした。今度はコーラルピンクのリップが私の口元に塗られていく。

鏡を見ると、ものすごく驚いた。
ん!?さっきよりなんか顔が明るく見える?!
鏡に映った私の表情は先ほどに比べて顔色がぱっと明るくなった気がして、肌の色もほんのり柔らかく明るくなった気がした。え、なんか不思議……。

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自分の顔をしばらく見つめた後、BAさんに聞いてみた。
「あの、さっきより顔色が明るくなった気がしたんですけど、気のせいですかね……?」
「お客様は色白でしたので、シック系のカラーよりもこちらのコーラル系がよりお似合いかなと思って試させていただきました。どちらも大変お似合いでしたよ」

私はずっと自分の肌の色が黒い方だと思っていたけど、どうやらそれも勘違いだったようで、シックなカラーよりも明るめのカラーの方がよく似合うということが今回初めて分かった。私って肌白い方だったんだ……。どうりでシックなカラーがしっくりこない時もあったわけだ。

その後もBAさんとお話をしながら、アイシャドウやチークを試したり、肌診断をしてもらったり、5分ほどで買い物を終えるはずが、30分ほどあっという間に時間が経っていた。
結局私は目当てのものではなく、BAさんにすすめてもらったリップを購入して帰宅した。

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ずっと躊躇していたコスメカウンターでの買い物は、いざ足を運んでみると自分が今まで似合うと思っていなかった色との発見があったり、メイクやスキンケアの相談に乗ってもらったり、自分が想像していたよりずっと楽しかったし行ってよかったと思えた。

今はコロナ禍でなかなかタッチアップも難しいけど、またスキンケアの相談や季節のメイクの相談に足を運びたいと思う。パーソナルカラー診断も受けてみたい!そう考えると気分も上がるし、何事も少し勇気を出してみるだけで、どんなことも道や楽しみが広がるんだなと思えた。