私はメイクが好きだ。メイクで違う自分になる瞬間が面白い。メイクをすることで、自分の嫌いな部分を好きになれるし、「私は可愛いんだ」と自信の魔法をかけてくれる。その上、可愛いパッケージは、持っているだけでテンションが上がる。
可愛いアイテムは生活のQOLが爆上がりだ。もはやメイクは体の一部、生活になくてはならない存在だ。ノーメイク、ノーライフ!

なんてことを言っているが、私は店頭で購入することがほぼない。もっぱらネット通販だ。自意識過剰なので、「お前がこれ買うんか?」と思われたくないのだ。失敗したくないので、購入する際はパーソナルカラーに当てはめる。SNSで徹底的に調べる。調べた上で、本当に必要か考えてから購入している。めちゃくちゃ慎重だ。絶対に、自分に似合うものしかつけたくないのである。

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いつものようにSNSでコスメパトロールに勤しんでいた時のことである。お気に入りのブランドから、秋限定のアイシャドウのお知らせをLINEで受け取った。その時はあまり気にも止めずに、他の気になっていたコスメの情報を集めていた。
数日経ち、新しく購入したコスメを整理していた時だった。何故か、あのLINEが気になってしまう。LINE画面を開いて、お知らせ画面を見る。
秋の午前中をイメージしたアイシャドウパレット。特にチェックしていなかったが、よくよく見ると心惹かれるものがある。落ち着いたレッドとキラキラピンクのラメで心が躍り出した。何よりモデルの写真が良かった。めちゃくちゃ落ち着いた大人の秋メイクで、自分もそうなりたいと思ったのだ。

パーソナルカラー的にどうなんだと悩みつつ、ネットではショップによって在庫があったり、なかったりという感じだった。衝動買いしてもいいが、もし失敗したら……?そう思うと、結局購入出来ない。夫に相談すると、「だったら、直接店舗に行けば良くない?」なんて、あっさり言われるのだった。マジで無理!
ただでさえ、店舗で購入するのが苦手なのだ。ましてや、デパコスである。敷居が高い。高すぎる。キラキラでおしゃれな人が集まるカウンター。そんな所に田舎者が行っていいのか?死なない?不安でしかない。

そんな私を気にする様子もなく、夫は「あったら買ったらいいし、なかったら縁がなかったってことでいいんじゃない」と言ってのける。他人事だからって軽く言いやがって……などと、八つ当たりにも近い感情を抱いた。悩みに悩んだ末、勇気を出していくことにした。「見るだけなら……」

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百貨店のコスメカウンターに来るのは、生まれて初めてだった。
想像通り、やはりおしゃれな人がいっぱいだ。気後れしつつ、お目当てのコスメカウンターへ向かう。ときめいたあのアイシャドウがパッと目についた。やはり可愛い。
「こちらの商品、気になりますか?」
すぐに美容部員の方が話しかけてきた。買うか悩んでいることを告げると、普段どういったコスメを使っているのか、メイクに対する悩み事はないかと事細かに聞いてくれた。彼女は、「だったら、実際にメイクしてみましょう」と、にこりと笑った。

コロナ禍ということもあり、美容部員の方によるタッチアップは出来なかった。その代わり、横で教えてもらいながら、自分でメイクをすることとなった。これがとんでもなく恥ずかしかった。
人に見られながらのメイクはとにかく慣れない。早く終わらせようと大雑把にしようとすれば、「薬指を使うと良いですよ」とか「そこは優しく馴染ませてください」と、すぐに指示が飛んでくる。「ひえ〜」と震えながら、なんとかメイクを終えた。だから店舗で購入するのは嫌だったんだ。
ぐったりしつつも完成した顔を見ると、びっくりした。パーソナルカラーなんて関係なくキラキラしている。いつもの馴染んだメイクとは違う。思わず、「可愛い」を連呼する私に彼女は「ときめいたものが一番ですから」とにっこりと微笑んだ。

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その日は鏡を見かけるたびに、自分の顔を見ていた。自分のときめいたものでメイクすると、こんなにも顔の輝きが違うのか。嬉しくて飛び跳ねる勢いだ。
それ以来、私はパーソナルカラーを気にしつつも、ときめいたものには素直になることにした。あのアイシャドウはスタメンで、ここぞという時に活躍している。

あの時、夫にコスメカウンターに連れて行ってもらわなかったら。コスメカウンターの彼女にメイクを教えてもらわなかったら。私は、失敗しない馴染み深いいつものメイクをしていただろう。
だから私は今日もお気に入りのコスメで、自分を大好きでいっぱいにする。どんな時でも、ときめきを忘れたくないから。