私の、数少ない恋愛経験から学んだのは、嫉妬はいかに醜いものか、ということである。
私は、人を好きになっても、絶対と言っていいほど自分からは思いを伝えない。100%の勝算がなければ自分からは行くことができないのだ。
しかし、恋をするというのは、その人のことをずっと考えていることになる。気づいたら目で追う。声が聞こえたら耳を澄ませてしまう。少しでもその人を知りたくて、話しかけてみたりするものだ。
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もともと私は恋愛体質ではない。むしろ真逆の人間だ。恋とはなんぞや?と思いながら学生生活を過ごしていた。とはいえ世の中に無頓着なわけではない。私にはアイドルの推しがいる。今でもずっと応援しているその人のお陰で、社会から距離を置くことはなかった。
私なりの推し活として、テレビやSNSでの情報収集は怠らなかった。その人が出ている番組は必ず録画し、SNSは絶えずスクロールして画像や動画を探す。CMが不意に流れてくれば、反射のように振り返る。自分の興味のある話題や、都合のいい解釈に耳を傾けてしまう、カクテルパーティー効果の典型的なパターンだと言えるだろう。
これが現実世界となるとどうなるのか。
結論は、似たようなことをしている、だった。推し活と恋愛は違うものであることはわかっている。しかし、誰かを好きになるというところは同じで、その人を知りたいと思うことや目で追いかけていることも同じだ。そのため、知らずのうちにピンとアンテナを張っていた。
違う点といえば、これが自分と関係ある世界のなかで起きているということだ。公言すればたちまち噂となって本人に伝わる。誰かがニヤニヤとからかい出すことや、あざ笑うことがあるかもしれない。いわゆるスクープになることは避けたい私は、絶対に誰にも思いを悟られないように内に秘めることにした。
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誰にも話さない恋をしているため、あらぬ妄想だけが膨らんでいく。
今、彼に話しかければ、誰かに変な目で見られたりはしないだろうか。
彼を交えて話している女子たちのなかに、好意を持っている人がいるかもしれない。
何も考えなくても彼と話ができるのは羨ましい。
私だって、彼と話したい。せめて友達と言えるまでになりたい。
LINEでやり取りしたい
そんな思いが芽生えてきたのだ。
彼と友人として接する周りの女子たちに対して、うらやましさと嫉妬。その立場にいられることに対してと、自分のものにしたいという思いが交錯していた感情だった。
一度嫉妬すると、私の思考にはかなり強いバイアスがかかる。
誰かが私の方を向いて友達と談笑しているだけで、私のことをからかっているのではないかと気が気でなくなる。この思いがバレてしまったのではないか、と焦る。決してそんなことはないのに。
思考が妄想に変わって、それがヒートアップしていくスピードは過去イチ早かった。いつも頭を巡っている、推しとの現実離れした妄想よりも遥かに早く展開していく被害妄想。抑えようと思ってもしがみついてくる粘り強さ。頭を抱えてしまうほどだった。
さすがにマズイと思い、一旦俯瞰して自分の状況を見てみる。
すると、ただ思い上がって妄想しているだけであり、現実には何一つ起こっていないとわかった。安心するとともに、なんておかしなことをしているのだと呆れて笑ってしまうほどくだらなかった。
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私はあくまでも同じ空間にいる1人としか認識されていないはず。というか、存在している人物としてカウントされているだろうか。彼にとって私は、これくらいちっぽけな存在に違いないと思った私は、告白なんて絶対砕けるはずだと確信を得ていた。勝算0%ってやつだ。
彼に恋した期間は1ヶ月もなかったと記憶している。舞い上がって勝手に嫉妬してブラックな感情を作りつづけたのは約1週間。
俯瞰して自分を見たことで嫉妬に気づいた自分は、褒めちぎってやりたいくらいの好プレーをしたと思っている。
テストのマークミスに、試験時間残り10分の最終確認で気づいたようなものだ。このまま突き進んでいたら、いろいろ伝説を残してしまうことになりかねなかったと思う。
黒歴史を更新するところだった。
これから私が恋をすることがあったら、ここで学んだことを思い出そう。
自分で自分にブレーキを掛けられる余裕と選択肢を残すんだ。
そんなことを言っていられないくらい夢中になれる恋愛もしてみたいけれど。