死ぬほど夢見たシチュエーション。何度も現実なんだと言い聞かせた
死ぬほど夢見たシチュエーションだった。
ずっと推しのことが大好きで、2次元が2.5次元の距離になって3次元になって、手が届く距離まで近づいて、消えた。
何度も何度も現実なんだと言い聞かせた。
何としてでも彼の全てを記憶していたかった。
匂いも声も表情も温度も全部。
全てが消えてしまった今、彼と私はこれからどこに行くんだろう。そんなことを悶々と1人ベッドの上で膝を抱えて、夜だけが更けていった。
推しとは3年前に出会った。
推しに会うためなら仕事も徹夜で頑張れたし、日本全国どこへでも飛び回れた。画面を開けば、いつでも彼の笑顔に出会える。それだけで私はどこまでも頑張れた。
意図していない万人に向けられた彼の笑顔に私は元気をもらっていたし、支えられていた。連絡が返ってくるだけで、空も飛べそうな勢いだった。
夢を叶えた日、残ったのは嬉しさよりも、夢が消えた儚さ
そんな彼と一線を超えた。
大好きな彼とハグをしてキスをして……恋をすれば誰もが想像することだろう。当然私もそれはそれは何度も想像していた。
でも、現実はちょっと想像とは違った。肌を重ねれば全てが手に入る気がしてたし、一回重ねてしまえば、順調に恋人への階段を登れると思ってた。肌を重ねる時ももう少しイメージ通りに上手くできると思ってた。その時だけは世界中の誰よりも幸せになれるんだろうと思ってた。
でも、残ったのは、夢が叶った嬉しさよりも、夢が一つ消えた儚さだった。
事の最中、凄まじく色んなことがよくわかった。
彼はたぶん私を愛してくれてはいないこと。
私は彼のことが大好きだったけど、推しとしての彼が好きだったこと。
この行為は、本音を隠しているお互いにとって苦しいことであること。
そして、これが終わればもう2度と会うことはないこと。
もう2度と元の関係には戻れないこと。
全部を終わらせるつもりで会いにきた。
全部全部をかけて、ここにきた。
肌を重ねると言う妄想通りになったし、なにも後悔はなかった。
でも、わたしは推しとの愛で強くなったけど、一線を越えて本当はそこには生身の人としての愛がなかったことを知った。
偽物の愛でもよかった。推しからもらった最高の夜
最後になる夜だった。
私は推しから最高の夜をもらった。
嘘が嫌いな私だから、昔の私がこの夜のことを知ったらきっと激怒すると思う。でも、偽物の愛でもよかった。確かにそこには本当を夢見た愛があった。嘘でも夢でもいいから彼がここにいるという証拠を感じたかった。先の幸せが見える正しいだけの愛ではなくて、この一瞬の幸せの何倍もの苦しさがあってもかまわないと思えるほどの愛を私は知った。
幼い頃に夢見た背中に、声を大にして伝えたい。
その歳になった今、現実はこれほどまでに厳しく思い通りにならないものかと思い知るよ。
どれだけ忠実にシミュレーションしても、うまくいかない時はうまくいかないよ。
でも、大人にならないとわからない愛もある。
いろんな形の愛があって、その愛で人は何倍にも強くなれる。
その愛の尊さを、あなたはいつかの夜に知る。
大好きな推しとは、今後は遠くから背中を見るだけ、画面で笑顔を見るだけの関係になりそうだけど、1ミリも後悔はしていない。
この愛は、私の人生において最高最強だったと思えるから。
あの日、膝を抱えて明かした夜は、確かに私を強くしたと思うから。