8月8日。
「私だけの記念日」というテーマを見た時、今までの恋人との記念日の日付が思い浮かんだ。
付き合い始めた日。旅行に行った日。プロポーズされた日。
「記念日」と聞くと、「誰かとの思い出の日」が思いつくけれど、それは「誰か」との記念日であって、「私だけ」の記念日ではない。
このテーマについてエッセイを書こうと思ったとき、ただ何の変哲もない普通の平日だった、今年の8月8日のことが思い浮かんだ。
それは、誰かとの交際記念日ではない。
私が、知り合って間もない相手と男女の友情を築こうとした、ある種の初めて記念日なんだ。
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8月8日の月曜日。
あの日私は午前中だけ仕事をして、午後は有給を使って、ランチに行くことにしていた。
ランチのお相手は、大学院生。
私の職場は大きな高層ビルのなかにある。他にも様々な企業のオフィスが入居している。
偶然、私の職場と同じフロアにある別の企業のインターン生と一緒にランチをする機会があった。
そこで出会ったのが大学院生の彼。
年齢は私より少しだけ年上。
身長が165cmある私でさえ、話すときの目線が少し上向きになってしまうような、高身長だった。
内定先は、誰もが羨むような外資系コンサルティングファームだという。
お互い動物が好きで、その話で盛り上がったことだけは覚えている。
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2人だけで会う約束をして、ちょうどお互い都合が良かったのが8月8日。
その前日に彼から聞いて知ったけれど、8月8日は彼のお誕生日だという。
私の価値観では考えられないことだった。
自分の誕生日にまだ知り合って間もない、素性も知れない相手(異性)と会うなんて。
自分の誕生日は、大切な人と一緒に時間を過ごしたい。もしくは、一人で自分をもてなしてあげたい。
そんな私にとって、誕生日に、素性も知れない女の子とランチに行って、午後カフェでのんびり過ごす、デートの予定を入れる彼の思考回路は不思議だった。
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なぜこんなたわいもない日が私だけの記念日なのかというと、お付き合いもしていない、恋人でもない、身体の関係もない異性のお誕生日を、その当日に祝うことが初めてだったから。
私の初めて記念日なんだ。
「落としちゃおう」なんて魔性の女みたいなことを考えずに、恋の駆け引きもせずに、純粋に異性のお誕生日を祝えるようになった記念日。
同性の女友達のお誕生日でさえ、さすがに誕生日当日に会うのは気が引ける。
仕事をし始めて、ほしい物も買おうと思えば買うことができる少しばかりの経済力も生まれて、何かプレゼントが欲しいというよりは、ゆっくりする時間や旅行する時間が欲しくなる年頃が20代~30代だと思う。
他方、異性の誕生日は、年齢を重ねるにつれて、すごく気を遣うものになってしまった。
幼馴染や学校の同級生を除き、大人になって、社会に出て、出会いが多くなってからは、異性との関わりにおいて、純粋な友情関係を築くことはいつの間にか難しくなってしまった。
恋愛関係になるか、仕事だけの関係になるか、もしくは一言では表現できないような少し訳ありの特別な関係になるかの3択だ。
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恋愛関係にある異性なら、誕生日は祝ってあげることがスタンダードだと思う。
私は、遠距離恋愛で一度も相手の誕生日を対面で祝わなかった経験もあれば、相手の誕生日に旅行に行った経験もある。
男性にとって「女性に誕生日を祝ってもらった」ということ、女性にとって「男性に誕生日を祝ってもらった」ということは、なぜだか少しだけ特別感が出て、ただの友達関係ではないことを暗示するかのようだ。
だけれど、大人になった今だからこそ、恋愛関係にもならない、仕事だけの関係にもならない、純粋な友情関係を作ってみたい。
そんな思いで新たな一歩を踏み出した私の記念日が、8月8日。