実家のベッドの上。震える手を抑えつけて、通話開始のボタンをタップした。
高校を卒業したての春。私にとって最後の告白の記憶である。

同じクラスになったのは高校2年生の時。男女問わず仲の良いクラスで、クラス会も何度も開催されたし、卒業式の日にはわざわざみんなで集まって写真を撮るようなクラスだった。
私はクラスの中では特に目立つポジションではなく、仲の良い数人とスマホゲームをしたり、「彼氏欲しい〜」と話したり。我ながらごくごく普通の女子高生をしていたと思う。

そんな平凡な女子高生が恋をするのも、また平凡なことであったのだろう。ある日稲妻が走った一目惚れ、などではなく、クラスメイトがある日を境に特別に見えていくような恋だった。

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きっかけはクラス会。私のスマホで撮った写真を彼に送るために個人LINEを送ったのが始まりだった。そこから続いた他愛ない会話が楽しかったのに加え、私も彼も会話のやめ時を知らなかった。
細々とではあるが、そこから1年。LINEが繋がるにつれ、私の気持ちも「付き合えるのではないか」と高まっていった。
とはいえ、自分から告白する勇気など到底なかった。3年生になると隣のクラスになってしまった彼に、教科書を借りに行ったり、バレンタインにお菓子をあげたり。「私は好きだぞ……!」と些細なアプローチをするのが精一杯であった。

しかし、私たちは受験生。推薦で年が明ける前に進学先を決めた私はよかったが、国公立大を目指す彼はそういう訳にもいかず。彼はもちろん周囲が受験ムードの中、私だけが恋愛モードになることも出来ず、恋愛休止中のような時期も長めに続いた。

そして3月。卒業を迎えた私たちは4月からの進路が地元と地方に分かれた。地方に行くのは私の方。やりたいことが都会の大学でできるため、友人の多い地元から離れることは随分前に決めていた。
進学したらもっといい出会いがあるのかもしれない。でもそれは彼の方もそう。その前にもし進展があるのなら。精算をしておけるのなら。この気持ちに踏ん切りをつけたいという意味半分、淡い期待半分。
「言うなら今しかない!」
これから訪れる別れが私の背中を押した。

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四畳半の子供部屋。この部屋ともあと数日で離れるから、もしダメだったとしても部屋を見て辛い気持ちになることはないだろう。保険に保険をかけて、彼に電話をかけた。
『通話する』そのボタンを押せば、簡単に彼と話ができる。「好きです」とたった4文字の言葉を伝えるだけ。それなのに、その一歩がひどく先に見えた。
でも事前に彼にかけると声もかけている。ええいもうヤケだ!そんな気持ちで通話ボタンを押した。

正直かけてからのことはよく覚えていない。ベッドの上で正座をして、握りしめたスカートは手汗でしっかり濡れていた。
「通話終了」
暗くなった画面に映り込んだ私の顔は歪んでいて、冗談にも可愛い顔とは思えなかった。叶わなくても良い。そんなものは体のいい嘘で。好きな人と両思いになる、そんな瞬間を夢見ていた。手の震えは収まったが、今度は頬が濡れていた。

もっと早く気持ちを伝えれば。もっと早く気持ちに気づいていれば。もっとしっかりアプローチしていれば。もし地元に残っているのであれば。
後になってそんな気持ちが溢れてくる。後悔をしたくないと思って気持ちを伝えたのに、残ったのは後悔ばかりだ。

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それから2年。成人式の後の同窓会まで彼と会うことはなかった。気まずさもあったし、仲の良いクラスだったといえど帰省のタイミングの度に集まるものでもなかったので私的には都合が良かった。
お酒の力を借りて、多分その場は何とか乗り切れた。でも思ったのは「素敵な人だな」ということ。2年経って外の世界を見た私が素敵だと思うのだから、高校生の私の見る目も悪くなかったのだと思う。

あの日の勇気は叶わぬ夢になった。当時は後悔しか残らなかったけど、今の私は全力であの日の私を褒めてあげたい。
勇気を出したあの日の私。
あなたは頑張った。震えながら、せいいっぱい恋をした。あなたは素敵な人間だよ。