私は大学生になるまで初恋をしたことがなかった。
だから友達が言う「恋愛」が全く理解できなかった。「手を繋いだらどきどきする」とか「初キスは桜の木の下だった」とか、そういった女子トークに混ざることはあっても私自身は経験したことがないため、全く想像がつかない。
でも、ある友達が話す恋愛トークを聞くたびに、私は「なんか怖いな」と思ってしまった。

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中学生や高校生になると、みんな彼氏彼女の話をしていた。私は恋愛トークを聞くだけの立場だったが、嬉しそうに話す友達の姿を覚えている。
「〇〇くんと付き合うことになっちゃった!」
「やったじゃん!」
「今度、遊園地に行くの!」
「えー!私は水族館!遊園地もいいよね!」
……のように、恋愛女子トークが毎日休み時間に繰り広げられていた。
私は「みんな幸せで嬉しいなぁ……」とどこか親目線(?)で友達の恋路を応援していた。

それと同時に恋愛を楽しんでいる友達の姿にほっこりしたものだった。その頃の私は恋愛に全く興味がなく、本を読んだり、勉強のことしかしていなかった。でも恋愛トークを聞くことは退屈ではなくむしろ新鮮で、そんなこともあるんだなーと思う程度だった。

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でも、ある友達が話す恋愛トークによって、私が抱いていたほっこり女子トークに終焉が来てしまった。その子は付き合う人がコロコロ変わる子だった。とても明るくて笑顔がかわいい子。だから男女共にその子が好きな人は多かった。
その子は恋愛経験が多い分、沢山のことを私に話した。
例えば「〇〇くんとは映画館に行った」「××くんとはショッピングに行った」とか色々な話を聞かせてくれた。
そのたびに私は「楽しそうでよかった」と口にしていたが、定期的に付き合う人が変わるので、何故だろうと疑問に思いながら恋愛トークを聞いていた。

疑問に思ってしまったらそれを聞いてしまうのが私の癖で、授業のときもよくわからない質問をしたりして先生を困らせたこともあった。あのとき、私は自分が抱いた疑問を友達に聞いてしまった。「なんで好きな人とすぐ別れちゃったの?何かあったん?相談にのるよ?」と。
でも、聞かなかった方が良かったのかもしれない。私にとって驚くべき答えが返ってきたのだから。

その子は言った。
「だって、必要性を感じなくなったんだもん。だったら一緒にいたって意味ないよね?私は楽しくないし」

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彼氏さんの必要性がなくなった???私はその言葉を聞いてポカーンとしてしまった。その頃はマスクもないし、私は思ったことが顔に出てしまう人間なので、その言葉を聞いたときはとても間抜けな顔をしていたように思う。
「必要性?」と私がその子に聞き返すと、「だってさ、一緒に居ても面白くないんだよ?恋愛って面白くないと意味ないし。なんかもう、いらないかなって」と言った。多分こんなようなことを言っていたような気がする。私は驚きのあまり無言になってしまった。

必要性がない?必要性がないから彼氏さんはこの子に振られたの?
でも付き合っていた男子からすれば、今でもあなたのことを好きかもしれないよ。
そんな気持ちで付き合っていなかったかもしれないよ。
そんな理由で一方的に別れを切り出されて平気な人なんている?
もっと相手のことを思い遣ってあげればいいのに。

心の中で私はそう呟いたが、友達には届かない。でも、そんなふうに人を切り捨てることができるなんてなんか怖いなと思った。

この子に限らず、恋愛に対して色々なことを考えている子がいることを知った。
「あいつなんかマジどーでもいい」とか「いつもくっついちゃうから嫌がられてないかな」とか「束縛してくるから今すぐ別れたい」とか、色々な話を聞いた。

私には何もわからない。恋愛にも色々な考え方があっていいと思う。でもどこか心がざわついた、そんな私の遠い記憶。
中学、高校の頃はそんなことを思っていたが、今の私は果たしてどうだろうか?