「おみくじ大吉引いたのに、別れた。やっぱり恋愛難しい」
人生で初めて、お互い好きなのに別れるという大人な恋愛の終わり方を経験していたある夜。それは、私が好きになった相手は、必ずしも私が幸せになれる相手ではないと気づいたときだった。
「好き」という感情はあまりにも身勝手で、「私らしく生きる」という幸せをないがしろにしてしまうくらいのパワーがある。
「幸せになれる相手を好きになりたいのに」と泣いたその夜、私は「恋人と別れちゃった」と他人に慰めを求めるタイプの人間ではなかったのに、今回だけは、高校からの男女の友情が続く、私の大切な人に、「別れた報告」のLINEをしてしまった。

彼は、以前書いたエッセイ(「8年来の男女の友情。淡い「好き」を思い出しても、良き友達のまま」)の主人公になった人である。
いつの間にか連載のように、私のエッセイに登場する重要人物となった。

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「別れた」という傷心の私からの、深夜のメッセージに対して彼からの返事は「大丈夫?」「話聞くよ?」ではなく、「恋愛は難しいから楽しいのだと思う」の一言。
相手が異性であれ、同性であれ、失恋話をもちかけられたら、普通は「どうした?大丈夫?」と親身になって話を聞いてくれたり、「美味しいものでも食べに行こう」と気を紛らわせてくれたりするものだと思うけれど。
やっぱり彼らしい返事だった。
私は、誰かに慰めてほしいわけでも、愚痴を聞いてほしいわけでもなかったから。
大丈夫なはずないのに「大丈夫?」と聞かれても、「話を聞くよ?」と言われても、正直嬉しくない。
私の恋愛だから、私の人生だから、私が私の力で気持ちを整理しないといけないから。
彼は、私の反応を見越して、私からの「別れた」というメッセージはあえて無視して、「やっぱり恋愛難しい」というメッセージにだけ、お返事をくれたのだと思う。
どんなにつらい失恋をしても、日常は続くし、朝起きて仕事をして夜眠るというサイクルは変わらない。
いつもと変わらない日常を保ちながら、誰か1人くらいには、私の心が少し限界を迎えていたことに気づいてほしかった。それが彼だった。

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「1週間経ったら、吹っ切れたわ(笑)」と私は再びLINEした。
ただ、彼からの返事は意外だった。
「でも、寂しいでしょ。顔見たりとか声聞かないと分からないけど、なんとなく寂しいって伝わってくるよ」と。
この時だけは、彼が私のことをよく理解してくれていることを、ほんの少しだけ恨んだ。
寂しいとは悟られたくなかったのに、傷ついているとは知られたくなかったのに、少しだけ強がって「吹っ切れた」と宣言しているとは知られたくなかったのに。
「まあ、悲しかったら悲しめばいいし、いらだったら愚痴ればいいよ。ただ、それが一番難しいけど」
図星だ。人間は素直になって生きることが一番難しい。
素直になりたいのに、プライドが邪魔をしてくる。
素直になりたいのに、世間からの視線や声が怖くて、一歩踏み出せなくなる。
付き合いが長い友情関係は不思議なもので、自分が相手を求めているときに、タイミングよく相手が気づいてくれたりする。
朝の5時にどうしても起きてしまって、二度寝をすることも出来ず、YouTubeを見ながらふと突然彼に「元気?」とLINEを送ったとき、すぐに既読がついた。
彼は、引っ越し作業がやっとひと段落したところで、偶然、私と同じように朝の5時に目覚めてしまったらしい。
そう、引っ越しだ。
実は、人事異動によって、彼は広島から愛知へ。
より東京が近くなって、私は本心少し嬉しかった。
彼が愛知に引っ越す1週間前に私は名古屋に出張していて、会うことはできず、何とも惜しいすれ違いをした。

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私たちはいつもすれ違ってきた。高校生の時も。大学生の時も。大人になってからも。
4年ぶりにフリーになった私は、勇気を出して、自分の気持ちに素直になって、一歩を踏み出してみることにした。
彼のことが好きではないと言ったら、嘘だと思う。
かといって、彼との恋愛には踏み込めない。
遠距離恋愛を経験したことで、「会いたいのに会えない」が長く続く恋愛は、私には向いていないと知ったから。
だけど、何の文脈もなく突然、「いつも支えてくれてありがとう」と送ってみた。
何かを察知したのか、彼は電話で「ねぇ、少しだけ友達以上になろうよ」と言い出してくれた。
「付き合おう」ではなかったことに安心した自分がいた。
私たちは、お互い、今恋愛を始めることで必ずしも幸せな思いばかりを経験するわけではないと知っていた。
責任から逃げていると言われているのかもしれない。
それでも、今、私が彼に「大好きだ」と伝えることで、彼が私に「俺も」と伝えることで、私たちは遠距離恋愛の悩みを抱えてしまうから、あえて幸せだけがある道を選んだ。

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それでも、彼は私を笑顔にしてくれる。
彼氏でもない、恋人でもない、友達でもない。
何か新しい名前をつけたいようで、でもこの名もない関係が心地よいようで、大切なパートナーとだけ言っておきたいけれど、彼と私はただお互いを支え合う関係になった。
普段会えないからこそ、色んなルールを決めた。
他の異性と会ってもいいこと。他の異性と身体の関係だけなら結んでもいいこと。
一番大切なのは、月に1回のデートだ。
さぁ今月はどこで会おうか。