2日前、大学4年の私は内定先の研修を終え、宿泊先のホテルで3つオンラインの用事をこなした。これでゆっくりできる~とリラックスしかけたそのとき、突然LINEが来た。
「ちょっと悩みがあるんだけど、話せたりする?」
そんな風に頼られるのは初めてだった。
「うん!もちろん!!」
引かれるかもと思いつつ、頼ってもらえた嬉しさでそう返信した。
それから、1時間ほど彼と音声通話をした。彼はこの日の会議にも参加していた、私の統括するボランティアチームのメンバーだった。
さっきカノジョの話をしてたから、まさか恋バナするとか?(笑)という軽い考えで通話開始ボタンを押した私だったが、彼の口から語られたのはもっともっと深刻で複雑で、心をかき乱す衝撃の内容だった。

「ボランティアなのに、なんでこんなにやらないといけないのか」
「リスペクトはするけど、考えに共感しきれない」
「忙しさを言い訳にはしたくない。だけど、○○とか××とか彼女とか、優先したいものが他にある」
頭で整理しながら聞くために彼の言った言葉をメモしていく。頷きのタイミング、バリエーション、会話の間(ま)に気を配りつつ、私は数か月前の自分を思い出していた。

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就活を終えバイトも辞めたことで時間的余裕はできたが、そこに入ってきたのは大量の洗脳とタスクだった。
「そんなにやらなくてもいいんじゃないの」と母に言われたことがある。でもその言葉をちゃんと受け止められるほど私は強くなかった。ただひたすら、給料のない“仕事”を頑張り、金欠なのに仲間づくりのために飲みやご飯に行き、「今後これをされたらやめてやる」とギリギリのラインを狙って言っていた言葉も、次第に言わなくなっていった。

「なんでそんなにやってるのか、教えてほしい」
そう問われても、「仕事だから」「友達関係がまあうまくいってるから」というくらいの理由しか出てこなかった私は、自分が1番違和感を感じる言葉をなぜか発してしまった。
「楽しい、んだよね」

「じゃあ、根底にあるのは『楽しい』っていう感情なんだね」
どうだろう。正直ピンとは来ないが、彼に嫌な選択をしてほしくなかったから、「まあ、そうかな」と返した。
実際、そんなに深く考えるような暇はなかった。言われてみれば納得するようなことばかりだったけど、彼ほど意識して物事を見れていなかった私は、今までひた隠しにしてきたいろんな感情を思い出しては必死に無になろうとしていた。

そして最後の最後、彼からのお願いは、必死で正直な気持ちから逃げてきた私をとっ捕まえて言う、残酷なものだった。
「君の意見が俺にとっては1番大事なんだ。俺がこのチームにいることは、プラスかマイナスか。情は無しで、組織としてどうなのか答えてほしい」

自覚はあるらしいが、この彼は本当にわがままが過ぎる。充実したプライベートをSNSで披露しておきながら会議にはろくに参加せず、参加しても本当に“参加”しているわけではない。自分は会話に入ろうとしないことで意思表示をしていたくせに、どうしてわかり切ったことを私にわざわざ明言させるのだろう。

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私はその日の晩、久しぶりに声を出して泣いた。母の前だろうが関係なかった。頭がぐちゃぐちゃで、早く冷静になって他のことを整理しないといけなかったのに、もうボロボロだった。結局泣きながら私は彼と同じことを言った。
「なんでこんなに頑張らないといけないの」
夜中に泣いて起こしてしまったことに申し訳なさを感じつつも、母は笑って世間話ができるくらいになるまで起きて付き合ってくれた。私が寝たのは朝の5時だった。

次の日の会議を休んだ。今日も、元々の予定を休んで、その後に入れた予定も休んだ。初めて認識した。今の私はまるで、ブラック企業に勤める人間のようだと。

今までにも体調を崩す人は多かった。それでも、みんな多忙なスケジュールの合間を縫ってやっているからと、自分で自分の尻をたたいてここまでやってきた。ときには恋だって諦めた。
いつも自分が敏感過ぎて悩んでいるのに、どうして彼のことには気づけなかったのか。ただボランティアを“体感”したかっただけなのに、辞める理由をつくるのは次第に難しくなり、辞めたくなっても抑えていたら、辞めたいという気持ちは消えていった。
意味なんて見出さなくても、自分の仕事はできるようになった。だけど、それをしない人には腹が立つし、仕事と言いつつ本当に仕事なわけではないから無理に強要もできないのが苦しい。

私はルールをつくった。こんなときまで真面目過ぎて死んでしまいたいが、一度洗脳の壺に自分が沈んでいることに気づけたなら、もう行動せずにはいられなくなるのだ。

①真面目はほどほどに。奉仕活動であることを忘れないよう、“仕事”という表現は今後控える。
②1番大事にするのは自分の心。傷を認識したら必ず休む。
③人は人、自分は自分と割り切る。
④なんでもスケジュールに書き込みすぎない。優先度が高いものだけ。

これも、完璧にする必要はないから徐々にやっていきたい。大丈夫、強制力を働かせるのはおかしいし、上が言ってるといっても所詮は奉仕活動だ。おじさんがなんか言ってるな、で一旦OKじゃない?

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こうして、この活動から離れる時間ももっと取っていきたい。どんどんタスクが溜まっていき、やってもやっても終わらないし結果も出ないし、そうなるとそこの仲間と話す時間だって増える。もう既にキャパを超えつつある。心のキャパだって、問題視すべきだ。

ちょっとずつ、癒していこう。
壊れる寸前にあったかもしれない私のことを。
まだいろんなことが許せないけれど、おとといの右胸下の痛みは本当だったから。
ストレスなんだよ、ちゃんと。意外と要領よく思われてんだよ、きっと。
十分すぎるくらい、あの言われようでも頑張ってるんだよ、あの子だって。

「この人に迷惑かけちゃだめだ、って思ったんだ」と言ってくれた彼。
冷静で言葉遣いや考え方も既に社会人上級レベルで、カノジョもいて海外留学にも行って難しそうな研究もやっていて羨ましいことだらけである。
「優しいね」と今までの人生で何度も言われたけど、自分では認めたくないと思ってしまう。だから「そうかな?」と笑いながら返してしまうんだ。本当は認めてほしいんだね。

あの日、彼の言ったことは彼の思ってることだ。私の言ったことじゃない。と自分に言い聞かせて一度涙が止まったけれど、やはり私は共感するしかなく、自分の恥を見たような気持ちになり悲しい気持ちがドバっとあふれ出した。今泣いたら明日にはもう元気になるかなという内容の歌を聴いて、また泣いた。

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あれから2日経ったが、まだ完全に冷静にはなれていない。slackも開きたくないし、私が壊れかけたことを他の人が知るのはずっと先になるのかもしれない。
だけど、多くの人に知ってほしい。自分が壊れかけていることを認識するのは結構難しいんだってこと。
こんなことで、と思うかもしれない。誰にも言えない、と悩むかもしれない。これは未来の私に向けた、今の私が出せる懸命のイエローだ。
働くことも休むことも、時間が経つのを待たずに「助けて」と叫んでいい。完璧になろうとせず、泣いて強くなり、休んで強くなる。そんな人になりたい。