「美味しい」と感じるのはどんな時だったろうか。体が欲しているもの、適度な疲労感・空腹時の時に最も美味しく感じていた自分に気づいた。
そんな条件が揃った私の「最近食べた1番美味しかったものは何?」の答えは「イワナの塩焼き」だ。

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遡って今年の春、シフト制の私に思いがけず連休が生まれた。せっかく陽気の良い5月、自然がきれいなところに行きたい。そう思い向かったのが“長野県・上高地”だった。
山岳リゾート地として人気の高いこの地は、ゆったりするもよし、トレッキングに励んでみるもよしで、今の私の気分にぴったりだった。生憎、すぐに予定が合う人もなく、久しぶりの一人旅となった。

新宿からバスで4時間。途中休憩を挟みながらだったこともあり、あっという間に到着。バスを降りて50mほど歩くとすぐに、日本アルプスの雄大な景色が広がった。
鳥のさえずり、葉擦れや川の流れる音。太陽に照らされてキラキラと輝く水面。
この時点で「私の休みは最高になる」という確信ができた。

本格的な散策は翌日になるかもしれないが、このきれいな景色をなるべく焼き付けようと思い、散歩がてら気になっていたお店に行くことにした。それが岩魚の塩焼きが名物の嘉門次小屋というお店だ。

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話は変わるが、私は川魚が好きである。
元彼と長野に行った際に、あゆの塩焼きが売っていて、「!」となって買った。元彼は一匹は食べられないから一口ちょうだいと言った(それが1番めんどくさい)。

買って一口目を食べたのは向こうで、しかも1番いいところを大口で行った。なんだかんだでめちゃくちゃ食べられ、ほとんど身を食べた記憶がない(内心ブチギレていたが、その時の私はなんだか言えなかった。今だったらメタメタに言ってる。食べ物の恨みはこわいんだぞ)。
それが最後に食べた川魚だったので、なんとしてもリベンジしたかった。

美味しく食べるために、2時間ほど散策をし、万全の状態(適度な疲労感と空腹感)で向かった。先に席を取って食券を買うシステムで、私はせっかくならと囲炉裏の部屋で食べることにした。

すぐ目の前を流れる川に生簀があり、焼く直前にそこから引き上げ、じっくりじっくりと囲炉裏にて炙られていく。火の揺らぎを見ながら、いつかいつかと待ちわびるのも悪くない。

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「お待たせしました」と、目の前に運ばれてきた岩魚は、尻尾から頭までこんがりと焼きあがっていた。骨なども全部食べられるそうだ。
お腹からかぶりつくと、「パリッ」という音がした。絶妙な塩加減・中はふっくら皮はパリパリ。脳裏に焼き付くような美味しさだった。付け合わせの煮付けや味噌汁もとっても美味しい。
夢中になって食べ続け、10分足らずで食べ終わってしまった。「これはまた明日も来よう」そう胸に誓ったのは言うまでもない。

あれから半年ほど経つが、その記憶は鮮明で。また上高地が開山したら、訪れたい。