「赤い色のサワー……あれはどんな味だったっけ……?」
インスタグラムのストーリーハイライトをさかのぼって考える夜。
お店に行く度、いつも飲んでいたあの味が思い出せない。

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社会人生活にも慣れてきた年、ひと夏の恋だった。
当時お付き合いをしていた彼の行きつけのお店。
チキンとお酒を求めにやってくる人たちで賑わう地元の居酒屋。
気になっていたけど行ったことがなかったお店に、彼が連れて行ってくれた。
私はこの場所が好きだった。

私にとって、彼が初めて連れて行ってくれたお店。
お酒好きな2人だったので、いつもはしご酒コースの1軒目で来ていたお店。
夜の散歩の途中にフラッと入ったら、カウンター席で1杯サービスして頂いた日。
記念日の夜、コンビニで買った缶チューハイを飲みながら話していたらノリで行く事になった日。
私の友達にもオススメしたくなるほど美味しくて、友達と一緒に来た場所。
彼が友達と飲んだ日は最後にいつも立ち寄っていて、ここにお迎えに行けば彼がいた場所。
店長さんやスタッフの方に私の存在を紹介してもらって、沢山友達が増えた場所。
2人は本当に仲がいいねって言ってくれた店長さん。
お付き合いしてから色んなきっかけを作ってくれた思い出の場所。
1番は、美味しいお酒の味を教えてくれた大好きな彼。
彼から教えてもらったお酒の味は最高に美味しくて、新しい毎日が楽しかった。

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彼は、いつも私の心配をして気にかけてくれた。
私が困っている時は助けてくれて力を貸してくれた。
プライベートで色んなことが重なり、気が滅入ってしまいそうになっていた時に彼から突然連絡がきた。
「日曜日だけど、今から1杯だけ飲みにいかない?」と。
気づかれないようにしていたつもりだったけど、気づかせてしまっていたのかもしれない。
もしくは、彼の優しさだったのかな。
私もお酒の力を頼りたくなるほど、何も考えたくなかったので彼のお誘いに乗った。
彼が迎えに来てくれて向かったのはあのお店。
席に着くなり、何も言っていないのに出てきたのは赤い色のサワー。
その日は特別にメガジョッキで乾杯をした。
次の日が仕事だったけど、何も気にしないで嫌なことを忘れたい一心でアルコールを体内に入れた。

彼の隣で幸せそうに笑う私。
お酒で顔を真っ赤にしながら、「ジジは偉いね。ジジは本当に凄いよ」って沢山褒めてくれる彼。
いつもの赤いサワーとつまみの枝豆。
1杯だけと言いつつも2杯目、3杯目と飲む。
スイッチが入ってしまい、この日もしっかりはしご酒。
手をつないで空を眺めながら並んで帰る帰り道。
昔ながらのお店の前に来ると、「ここ懐かしいね」と話すセリフ。
いつもの分かれ道、彼はいつも「またね」って手を振る。

これが最後だった。

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私達はお別れをした。正確に言うと、私が振った。
まだまだ未熟で子供な考えの20歳。
大人な考えが出来て自分の意思で行動できる彼と、一緒にいる自信が無くなった。
一緒に過ごす時間が楽しかったのに、あの時はお別れをする選択しか出来なかった。
今思うと申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
ごめんなさい。

あれから3年。一度も行っていないお店。
行ったら、一緒に過ごした時間を思い出してしまいそうで怖いから。

「赤い色のサワー……あれはどんな味だったっけ……?」
また今日も考える。またいつか飲める日が来るといいな。