8月6日は広島に原爆が投下された日。多くの人が戦争を忘れまいと祈りを捧げる。テレビでも追悼式の映像が流れ、花をたむける人や手を合わせる人などの様子が映し出される。
あれからもう何年が経つだろうと暗い雰囲気で話す。これからも戦争をするべきではないと、伝えていくべきだと話し合いが行われる。私もテレビを見ながら、戦争があったことを風化させるべきではないと感じている。
でも、私にとっての8月6日は暗いものではない。だって、大好き記念日だからだ。この日は私の大好きを伝えた日なのだ。
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私には6年付き合っている彼がいる。彼は服やズボンは脱ぎっぱなし、靴下は床にばらまかれて、柄が違うものばかりで合うものが見当たらない。洗い物が溜まりすぎていて皿にカビが生えていた。休みの日は銭湯に行って、その後は家のベッドで1日ゴロゴロ過ごす、はたから見たらだらしない人だ。
でも、そんな彼のことが好きだった。彼は私のことをよく気遣ってくれる。風邪を引いた時は毎日欠かさず連絡をくれたし、飲み物や風邪薬、好きなお菓子を買ってきてくれた。職場まで迎えにきてくれることも多く、仕事で遅くなっても文句を言うことなく待ってくれた。彼はたくさんのことを与えてくれた。
でも、私は何をあげられるのだろう。彼にほしいものを聞いても、「特に何も」とそっけない返事しかない。だから小物を作ったり、手紙を書いたり手料理をふるまったりするが、何か物足りない。
そんな時、100個好きなことを書くカードがあることを知った。100個。書いたことがない数に、多いのか少ないのかさえわからなかったが、とりあえず書いてみようとペンを持った。初めは好きなところがたくさんあり、書きたいことがどんどん出てきた。
「おいしいオムライスを作ってくれるところ」
「出かけた時に手をつないで歩いてくれるところ」
「直してほしいことあったら言ってと言ってくれたところ」
順調に書き進めていったが、途中で手が止まった。これは好きということなのだろうか。こんなこと書いて渡してしまったら、彼にプレッシャーをかけるのではないだろうか。
彼にそういう人間でいてほしいという押し付けになるんじゃないかと不安になった。自分の理想像を彼に押し付けている気になった。
「好き」って言いたいだけなのに、何か引っかかる。好きなことを書くだけのことと軽い気持ちで始めたが、意外と難しいことに気がついた。彼のことが好きだからこそ、好きを伝えることが難しい。
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でも、正直に自分の気持ちを伝えることに意味があるようにも感じた。彼へプレッシャーがかからないような言葉を考えながら書くことにした。
「告白してくれたこと」
「好きって言ってくれるところ」
「好きになってくれたこと」
照れくさかった。普段から「好き」と口にすることはあっても、100個も好きについて語ることはない。でも想いを言葉にすることで、心の中が整理され、晴れやかな気分になった。
100個の好きな想いをしたためたメッセージが完成した。メッセージを書く前は、早めに準備をしておいて、メッセージカードは彼の誕生日やクリスマスに渡そうと考えていた。
でも、書き終わった時、すぐに渡したい!と思った。達成感もあったが、今感じた気持ちを、彼への好きを早く伝えたいという気持ちが強くあったからだと思う。
だから完成してすぐ、彼に100個の好きを書いたメッセージカードを渡した。それが8月6日。8月6日に渡したから、8月6日は「大好き記念日」。
彼がこれをもらってどんな気持ちになったかは聞けなかった。今もどう思っているか分からない。その真相をいつか聞きたいと思っている。
真相が聞けたら、今度はあなたの好きなところを1000個書いて、新しい大好き記念日を作る。その時はきっと結婚していて、幸せいっぱいなんだと信じている。