子どもの頃は、働く大人に憧れた。お金を稼ぐことが出来て、自分で好きなものが買えて、一人暮らしができることへの自由を感じていた。
もっと時が一瞬で過ぎて、大人になれたら良いのに。
もどかしさを感じながら、何年かすれば社会人になれることに希望を見出して過ごしていた。この時は、仕事というものに近づきたい一心で、好奇心に溢れていた。
◎ ◎
それから約10年が過ぎた。大学を卒業し、社会人になった。一人暮らしも始めて、順風満帆な社会人生活を送れると思っていた。
このときまでは、子どもの頃と変わらない希望を持ちながら未来に思いを馳せていた。バリバリ稼いで貯金もたくさんしてやろう、そんな意気込みまでできるほどに。
仕事が始まると、最初は当然ながら大変だった。覚えることがたくさんあり、それと同時にパフォーマンスでも見せていかなければならない。
インプットとアウトプットを同時にしなければいけないのが社会人1年目。仕事が終われば、コンビニでスイーツを買わないと糖分不足で倒れそうになるくらい疲れた。失敗もした。今日は全然うまくいかない、そう思う日もあった。仕事に慣れれば、何事も卒なくこなせるようになる、そう自分に言い聞かせた。
毎日出社することだけは頑張っていたのだが、なかなか成長しない自分がそこにいた。
このときから、辞めたい、がちらつくようになった。
魔の3ヶ月。そう呼ばれる時期だから、ここはとりあえず辛抱だ。これまた自分に言い聞かせて、こみ上げる思いをぐっとこらえて仕事に行く、それを繰り返して毎日をやり過ごしていた。
ところが、この辛さは変わらず、職場に慣れるどころか、明日の仕事に嫌気が差し始めたのだ。仕事はいつも自分のことで精一杯で、周りを見ている余裕もない。1年上の先輩は仕事ができる先輩で、周囲からの評価も高かった。それもあり、仕事との距離はどんどん離れていく。
◎ ◎
働き始めてから、自分の中でリミットを決めた。2年。区切りとして目先の目標を2年に定めた。しかし、その2年が果てしなく遠い。10年先のような途方もない長さに感じた。
社会人歴1年半になろうとしていたころ、私は限界を感じた。
そして逃げた。このとき、もう二度とこの世界には関わらないと決めた。
それから半年後。環境をガラリと変えて、再スタートを切ろうとしていた。
これから生活していくためにはお金が必要で、稼がなければいけない。仕事をどうしようと考えていたとき、一番稼げる方法が前職と同じ職業として働くことだった。二度と関わらないと決めたはずだったが、もう一度関わろう、フィールドが違えば変われるかもしれないと思った。
運良く、家から徒歩圏内で、新しい職場が見つかった。そこにお世話になるのだが、この出会いが、仕事との価値観を大きく変える出会いとなる。
職業は同じでも、働き方を変えた。これまでは、正社員として週5日のフルタイム勤務だったが、今は週3日のパート勤務にした。休みを多く取り、自分の時間を増やし、休息に充てられる時間を作った。すると、仕事が楽しいと思えるようになった。
ひとつひとつ仕事ができるようになっていくこと、滞りなく仕事がこなせていること、新しいことを覚えては実践すること、全てが成長に結びついて行くのを肌で感じられた。
当然、失敗もある。ミスも、足らなかった準備もある。落ち込むけれど、次失敗しないようにどうすればよかったのか、足りない知識はなかっただろうか、自分からフィードバックするようになった。
◎ ◎
仕事に自分から歩み寄って、歩幅を合わせられる自分になれたのだ。もちろん、距離感は近くなる。やりがいも感じられて、向上心が湧くようになった。仕事に対して、辞めたい、関わりたくない、楽なことばかりであれ、と思っていた私が、頑張りたいと思っていた。終わりは決めなくても、ここで今を充実して働いていけたら良いと思えるようになった。ちょうどいい距離を見つけられた。
仕事との距離感は、職種を変えないと変わらないものだと思っていた。しかし、それは違った。環境を変えるだけで、自分が居場所を感じられることで、距離感は見違えるほど近くなり、変化をしっかり感じられることがわかったのだ。正直、ここまで自分の心境に変化があるとは思っていなかった。今の仕事も、ある程度食いつなぐための仕事として始めたつもりであったため、驚いている。
仕事との距離感は、たったひとつ変えるだけで大きく変わる。自分が思ってもみない近づき方をすることもあると、私は、私自身で証明をした。