2022年9月いっぱいをもって、札幌PASEOが閉店した。北海道新幹線の開通に向けた場所の確保を目的とした駅ビルの閉店が相次いでいるが、その第一号となったのが札幌PASEOだった。
PASEOには、チェーン店と他店舗を持たない個人店とがあり、チェーン店の大半が場所を異動して営業を続ける一方、個人店はそのまま閉店するところが多かった。
私のお気に入りのイタリアンも、そのまま閉店したうちの一つであった。

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札幌駅は、みなが愛するチェーン店と北海道を中心に展開するローカル店、お手頃価格のアパレルショップ等、あって便利なお店がコンパクトに入り交じる非常に便利な駅ビルである。私自身、実際に住んでいた頃は買い物のほぼ全てを札幌の駅ビルで済ませ、夕食を食べて帰ることも多々あった。
駅ビルの一つであるステラプレイスで、年明けに開催されていた抽選会では、参加賞のティッシュが山ほど貯まった。大学構内でも同じティッシュを持つ者が頻発しており、札幌市民にとって駅ビルがいかに大きな存在であるかを見せつけられた。駅ビルで遊んでいると友人に遭遇するというのは頻発事項だった。
また、これは関東に戻ってから知ったことなのだが、札幌駅の利便性は関東民にも通ずるもので、観光の際に駅ビルでお買い物を済ませて帰るというのが定番となっているようだった。

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そんな広々とした場所で見つけたお気に入りの一店。そこはレパートリーの少なかった私の料理品目に多彩な色を咲かせてくれることとなった、おいしくかつ優秀なお店であった。
そのイタリアンは、パスタとピザに加えてドリアやハニートースト、アヒージョなどの豊富な品ぞろえが特徴で、デザートは北海道特有の四葉のパフェが多様にアレンジされていた。加えてお手頃価格でアルコールの飲み放題が提供されていることから、あまりお金を使わずに飲みたい時やお通し代がとられたくない時、和風のおつまみを頼みたくない時など様々な機会で利用するチャンスがあった。

私自身、一人で食事をする時も、友達と食事の約束をする時も、そのレストランに出向くことが多かった。無限にある札幌市内の居酒屋の中で、私は10回以上もそのレストランに出向いていた。また、そのお店に友人を招待した際に得られる、それまで抵抗のあった食べたことのないジャンルを知ることができることも、一つの楽しみであった。

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そこでできた私のお気に入りメニューは、シーフードシチューのドリアとマンゴーパフェだ。

そのお店に限らず、それまで私のフルーツが乗ったスイーツの選択肢は、イチゴとラズベリーと桃のみであった。そこにマンゴーという選択肢を与えて下さったのは、博士課程に在籍する先輩であった。
元々マンゴー好きであった先輩は、会食の際に私がいつものように苺パフェを頼むと、好きそうだね、と言いつつマンゴーパフェを注文した。それまで酸味のないものを乗せることに抵抗があった私であるが、出てきたマンゴーパフェはおいしそうだった。
その後、一人で食事をする際にマンゴーパフェを頼むと、その味は今まで何度か食べたイチゴやラズベリーを上回るものだった。ほかのお店にはあまり見られないその物珍しさが、より一層美味しく感じられた。そこから、マンゴーパフェは札幌全体で最も食べたいものの一つとなった。

シーフードシチューのドリアは、ぷりぷりとした大きなエビとライスに効いたガーリック風味が特徴で、それがまた他のお店にはない美味しさであった。
それまでガーリック風味の食べ物に全く馴染みがなかったが、このドリアをきっかけに三種キノコのガーリックバターライスやアヒージョ、ガーリックライスとシーフードシチューのオムライスなど、メニューの枠を超えた様々な料理を開発していった。
自分で言うのもなんだが、これらはすべて絶品だ。

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昨年旅行で札幌を訪れた際も、同行した親と別れて私はそのお店に一人で入店し、上述した二つを注文した。また来年も食べられることを信じて、一年後にまた来ると誓った矢先のことであった。一縷の望みをかけて移転の可能性を探ったが、それもないようだ。

けれども、お店が私に残してくれたものは大きかった。
そのお店で学んだテイストを周囲に振る舞い、喜ばせることで、私はそのお店に感謝の意を表したい。顔も名前も知らないそのオーナーに会うことはもうないけれど、それが私のできる最大の恩返しだと思っている。