私の人生って、つまらない。

幼い頃から、「いい子」だった。先生の指導はよく聞き、授業は真剣に受ける。中学時代の成績はオール5だった。おかげで、私立の進学校に特待生として入学が叶った。

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高校生になってライターになりたいという目標を見つけてからも、ひたむきに努力を続け、大学卒業後に実現した。真面目に頑張っていれば、人生うまくいく。そう信じていた。
社会人生活が始まり、仕事一筋の日々。周囲の友達がアフターファイブを充実させ、SNSでアピールしていても気にしない。将来のためになる経験をしなければ。遊んでいる時間がもったいないとさえ感じていた。

稼いだお金は、起業に向けてほとんど貯金に回した。お金をつぎ込むような趣味は持たず、一人暮らしする部屋にはほとんどモノがなかった。

それで十分、満たされていた。はずなのに。
25歳の時、仕事で知り合った4歳年上の彼は、平日は会社員、休日はDJという2つの顔を持っていた。音楽が好きという共通点から仲が深まり、いつしか2人で出かけるようになっていた。
「一度でいいから、DJしているところ見てほしい」。気は進まなかったが、彼を知りたいという気持ちが勝り、彼が定期的にプレイしているクラブに足を運んだ。

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初めて行く場所だった。ナチュラルメイクで、露出の少ないトップスにロングスカート。普段通りの格好をした私は、完全に場違いな人だった。
酒を帯びた様子の男女が次々と現れ、ダンスフロアで体を思い思いに動かしたり、狙いの子を定めて声をかけたりして、夜の世界を楽しんでいる。一方の私は、部屋の片隅に突っ立っていることしかできなかった。

「やっぱり来なければよかった」
帰ろうとした時、30代半ばの男性に声を掛けられた。
「何か飲みなよ」
どうやら店のオーナーらしい。バーカウンターに招かれ、ドリンクメニューを渡された。ハイボールを注文し、飲み物が提供されるのを待っている間も、男性は知り合いであろう客たちに次々とお酒を振る舞っている。しまいにはショットグラスをトレーにいくつか乗せ、配りだした。

「かんぱーい!」
かけ声とともに、その場のテンションが最高潮に達した。流れに身を任せ、テキーラを流し込むが、圧倒されっぱなしで、彼らのようにはじけられなかった。遊び慣れていない自分が未熟に思えた。

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ようやく場の空気に慣れて、近くにいる人と話す。飲みっぷりがいい彼女は、仕事をしながら、プロのダンサーを目指している。縁があって週1回、ここのステージに出演するようになったという。

手あたり次第、ナンパをしていた彼は転勤族だった。友達がほしいが、出会いがなかなかないらしい。「せっかくいろんな土地に行くなら、いろんな人と知り合いたいし」。ただ、遊んでいるように見えた人たちは、人生を彩るすべを知っているように思えた。

小さいころからいい子でいたのは、誰かに認められたかったから。今だって、憧れて始めたはずの仕事なのに、自分の意志より、誰かのためを第一優先に働いていて我慢ばかり。いつの間にか、やりたいこと、好きなことが分からなくなっていた自分から目を背けたくて、将来のためと理由付けができる仕事や勉強に逃げていた。
20代後半になって、気付かされた現実。
「私、全然今を楽しめていない」

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翌朝、帰宅して床に就いたが、眠れなかった。疲労困憊なのに。
休みでよかったと思う一方、普段の休日のように掃除して、お気に入りのカフェで読書や資格の勉強をするが、身が入らなかった。
「一日を無駄にした」。後悔した。だけど、こんな日があってもいい気がした。息を抜いて、見えることがある。

それから、クラブには何度か足を運んだ。結局、彼への恋心は実らなかったし、いまだに羽目を外せない。大きくは変わらなかった。
20代最後の年を迎えた2022年。残り2か月、未来への投資は一休み。好きなスイーツを思いっきり食べて、気に入った服やアクセサリーをたくさん買って、おしゃれを楽しんで……。少しずつでいい。自分を解放しよう。