仕事での私。本当の私。
福祉の仕事をしながら転職活動をしている今、「本当の私ってなんだろう」とよく悩んでいた。
福祉の人イコール優しそうと言われるたびに、「そんなに優しくないよ」と心のなかで思う。

転職するための自己PR欄に、人とコミュニケーションを取るのが得意だと書く。仕事の私はそれができるから。でもひとたび仕事を離れれば、人と話すことはそんなに得意ではない。
「どっちが本当の自分なんだろう」「今の仕事ではできるけど、本当に得意なの?」
本当の自分はどんな人なのか分からなくなった。

転職活動中に出会った「分人主義」

そんなとき、小説家の平野啓一郎さんが提唱している「分人(ぶんじん)主義」という考え方を知った。
とは、ざっくり説明するとたった一つの「本当の自分」がいるのではなく、対人関係ごと、環境ごとに分化した、異なるキャラクターの自分がいるという概念。対人関係や環境によって、分人の割合は変化し、それら複数の人格すべてを「本当の自分」だと捉える。

「分人主義」を知ってから、仕事との距離感が上手くとれるようになった気がする。唯一の「本当の自分」がいるんじゃなくて、仕事で「優しい」と言われる私も分人のひとつ。プライベートの特に優しくもない私もひとつの分人。今の仕事で私の分人が「優しい」と思ってもらえていることはいいことだと素直に喜べるようになった。

働くのが好きな私も、嫌いな私も、どちらも私の分人

色んな分人がいると思えば、自己PRも書きやすくなった。受けたい会社に合った分人はどれかな〜と探す作業は思ったよりも楽しいものだ。私しか持っていない分人もいるかもしれないし、逆に言えば今持っていない分人も環境や対人関係の変化で作れるかもしれない。

自己PRに限らず、自分がどう生きていきたいかも考えやすい。「こうありたい」っていう唯一の自分はなかなか決められない。「もう働きたくない……」と思う日もあれば、「やってみたい!」とやる気が湧く日だってある。どちらも私の分人。「転職活動をしているけど、そんなに働くの好きじゃないかも?」不安に思う日もあるけど、働くのが好きな分人が大きくなれる場所だってあるはずだ。

もっと好きな「分人バランス」を探す旅へ

それぞれ分人の割合は変わっていくとされている。今の仕事では今の割合。それぞれの分人が持っているスキルや得意を活かせば、割合を変えた別の仕事にだって挑戦できる。
仕事は私の分人に経験を積ませて育ててくれる。転職活動はもっと好きな私の分人バランスを探す旅。そう考えられるようになって、長かった私の「本当の自分」探しは終わりを迎えた。

仕事での私。本当の私。
仕事での私だって、何人かいる分人のひとり。フルタイムだし、なんだかんだ言って仕事が好きだから、今は私のなかで「仕事の分人」は大きな存在。全部じゃないし、唯一でもないけど、大きくて大事。ちょうどいい、仕事との距離感だ。