3年前のクリスマス。私は高校生最後のクリスマスをバイト先で過ごしていた。
バイト先は、クリスマスになるとチキンナゲットが390円になり、新作ソースが2つ出るあのファストフード店。もちろんクリスマスも例外なくフル稼働だった。
「ポテト足りなくなる!揚げるね!」
「レジ手伝って!」
そんな声があがる厨房に一体感がうまれ、クリスマスにバイトも悪くないなと思っていた。
高校時代、私は恋人がいた事がなく、クリスマスはバイトに入ることが多かった。それかヲタ活(アイドルのクリスマスイベントも悪くない)。
高校1年生から働いているバイト先だと、クリスマスにシフトを入れていいということは、何年も恋人がいないんじゃないか(その通り)と思われるなあと思ったが、だからなんだ精神でバリバリシフトを入れていた。いや、入れていただいた。クリスマスにバイトしていたおかげで、このエッセイが書けるのだから。
戦士のように忙しく働く私を見て、爆笑するサラリーマンが口を開いた
この日働いていたメンバーは、恋人がいない高校生(私)、人手が足りず渋々入ってくれた主婦さん、クリスマスなんて関係ない売上が大事な店長、季節や行事にとらわれないフリーター、あと忘れたけどもう数人いた。
クリスマスのバイト先に集まった人達は、何故か戦士みたいで少しワクワクした。
そうだ、別にクリスマスにバイトしているからなんだ、恋人がいたらクリスマスに休まなきゃいけない法律なんてないし、私たちがいなきゃお店は稼働しない。人がクリスマスを楽しむために、私たちは必要なんだ。
忙しさと心のどこかにあった虚しさとで、このような想いを抱きながら働いていた。
「いらっしゃいませ」
サラリーマンの客が2人、カウンターにきて注文をしようとする。私はレジに向かい、とびきりの笑顔で迎えた。
サラリーマンの1人が、私の顔を見るやいなや爆笑し始めた。
頭がハテナでいっぱいになる。私の顔に、何かついてる?
疑問の目を向けると、サラリーマンが口を開いた。
「牛乳瓶みたいなメガネだね。恋人いないでしょ?」
働いている人に感謝も出来ず、そんな事が言える人がこの世にいるんだ
は??????
カチン。
私の顔は強ばった。言葉が思いつかない。数日前にものもらいができ、コンタクトが出来ず、メガネでの生活を強いられていたのだ。酷い近視で、薄型レンズにしても私のメガネは牛乳瓶のように厚い。くいだおれ太郎並だ。
「あ、あは~あはは」
辛うじて出たヘラヘラ言葉で無理やり会話を終わらせ、注文を取った。確かビッグなバーガーのセットを頼んでいた気がする。
呆気に取られた。
人に、そんな事が言える人が、この世にいるんだ。
クリスマスに、こうして働いている人に感謝も出来ずに、恋人いないでしょなんて(そうですが!?)言葉を吐ける人間が。
戦士だなんだ言っていた自分が恥ずかしくなった。
私はこんなに頑張っているのに、哀れに見られてしまうんだ。
誰かが一喝したとか、動画拡散されてスカッととか、そんなオチはない
この後、他のバイト先の人が登場してサラリーマンに一喝したとか、他のお客さんが見ていて動画拡散されてスカッととか、そんなオチは特にない。
私はただヘラヘラ言葉を返し、そのサラリーマンは自分の発した言葉に責任も持たず、ビッグなバーガーだけ持って帰っていった。
この経験があってから、私はいつもより特に、クリスマスの日に働いている人に対して目を見て「ありがとう」を伝えるようにしている。
まあ私はこんな経験していなくても当たり前にそんなことはやってきただろう。
あなたとは違うから。あなたこそ恋人いないでしょ?