流行の移り変わりは早い。
もともと流行に敏感なタイプではないし、歳のせいもあってか、目まぐるしい変化に対応しきれていないことも多い。でも、思い返してみれば、自分も高校生の頃は、流行りのSNSのほぼ全てに手を出していた。もし今自分が高校生だったら、きっと流行りの音楽に合わせて、一生懸命ダンス動画を撮影していたのだろう。

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数多く存在したSNSの中でも一番印象深いのが、デコログというブログだった。
高校生の頃、私は日々、それはそれはくだらない文章をつらつらと並べ、誰かがリアクションしてくれるのを待っていた。
そのブログには、日記以外にも、好きなアーティストのことについても書いていた。すると、友人以外にも、そのアーティストのファンからリアクションをもらうことが増えた。
その中に、よくコメントし合うようになった、自分と同い年で、同じ県内に住んでいる女の子がいた。
大学受験シーズン終盤、春から彼女が通う大学と、私が通う大学が近所だということが判明した。意気投合した私達は、高校を卒業してしばらくした頃、実際に会うことになった。

当日、私達は駅で待ち合わせをした。定番の待ち合わせスポットには、同じように誰かを待つ人々で溢れかえっていた。
画質の悪い写真や、別人級の加工が施されたプリクラでしか見たことのない人を探すのは、簡単なようで難しかった。携帯電話の小さな画面と、周囲の人の顔とを交互に見ながら、しばらく探し回って、私達は念願の初対面を果たした。
はじめはぎこちない会話だったけれど、共通の話題がある私達は、すぐに打ち解けた。スイーツを食べたり、プリクラを撮ったりして、私達の第1日目を過ごした。

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数ヶ月後、私達は一緒にライブに行った。待ち侘びたその日、グッズを身に付けて、たくさん写真を撮って、2人とも大興奮でライブを楽しんだ。自分と同じ熱量で応援しているファン友達と、同じ時間を共有できるというのは、この上なく幸せなことなのだと知った。

それから私達は、毎年そのアーティストのライブに一緒に行くようになった。ライブのスケジュールが発表されると、連絡を取り合い、協力してチケットを確保し、ライブ会場で集合した。そのうち彼女の友達とも仲良くなって、ライブ以外の日にも食事したり、年に数回会うようになった。

時は過ぎ、コロナ禍になり、2年間ライブは開催されなかった。福祉関係の仕事をしている彼女が、職場から感染対策を徹底するよう厳しく指導されていたこともあり、私達は会うことすら憚られた。

そして今年、ようやくライブが開催され、私達は空白の2年間を埋めるべく、ライブ会場で集合した。
私達の愛するアーティストは、今まで溜めていた情熱や葛藤、ありとあらゆるものをすべて音楽にしてぶつけてきた。圧巻のライブだった。私は鳥肌と涙が止まらなかった。わざわざ見てはいないけれど、隣にいた彼女も、きっと私と同じ気持ちだったと思う。
ライブ後、私達は近くの居酒屋で乾杯をして、あれやこれやと長話をして、じゃあまた、と言って別れた。

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数週間後、私達は再会した。場所は彼女の結婚式。
正直、呼んでもらえるとは思っていなかった。彼女の学生時代の友人や、仕事関係の人達に混じって、私は少し緊張していた。場違いといえば場違いだった。
でも、そんなことより、彼女のハレの日に立ち会えたことを、この奇跡みたいな日を迎えられたことを、とても嬉しく思った。私達の大好きな音楽に包まれた、あたたかい式だった。

私達は地元も、通っていた学校も違う。実際に会うまで、本名すら知らなかった。普通に生活していたら、きっと出会うことはなかっただろう。
SNSで出会って10年。こんな日が来るなんて、思ってもみなかったね。大切な日に呼んでくれてありがとう。
これからも毎年ライブに行って、何回でも乾杯しよう。
もっとおばさんになって、話す内容が旦那の愚痴とか、子供のこととかになっても、結局最後は、高校時代のブログの話を何回も繰り返して、いつまでもゲラゲラ笑ってしまう私達でいよう。