「だって、お化け怖いじゃん」
一人暮らしを頑なにしてこなかった1年前の私の言い訳がこれ。
「生きている人間の方がよっぽど怖いよ」なんて言うが、それには同意する。しかし、お化けも怖い。私の中で、お化けというものは、比例対象があることでかすむような弱い存在ではない。圧倒的存在感を誇っている。

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25歳までは、これを言っても「可愛い!」なんて言われたものだが、アラサーにもなると流石に大声で人には言えなくなってきた。
怖いというのは、嘘ではなく、大真面目な話。幸いなことに、私は霊感を授けられずに、この世に生をなした。そのため、今まで幽霊を見たことも、感じたこともない。
だけども、怖いものは怖い。見えなければ怖くないというのは、ありえない話で、見えないからこそ、何が起こっているか不安になる。暗い中で寝たときに、耳元から音が聞こえてきたら……。やっぱり怖い。かといって見えるようになりたいわけでは全くないのだが。

一人暮らしの辛さは、その怖さを共有できないこともある。誰かがいたら、「怖かったね~」と共感し合え、感情を和らげることができるだろう。もし相手が目撃していなかったとしても、家庭内で起こった事例に対しての報告義務として、話すことができる。
小学校に上がっても、お姉ちゃんの部屋に入り浸っては、追い出されて、泣きながら母の布団に忍び込んだ。母と二人暮らしになってからは、貧乏だったこともあり、社会人になるまで一緒に寝ていた。そのため、怖さを感じることなく良眠し、健やかな身体を手に入れていた。
社会人になって、友人と一緒に住んでいた時も、相手が夜勤で家にいないときは、寂しくて友達や彼氏を呼んでいた。母と寝るのとは違い、気を遣う。寝返りが打てない。でも、怖くなかった。

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そんな私がこの度、一人暮らしを始めた。東京を出て、島の病院の研修プログラムに参加するためだ。
私の“お化け説”を知っている友達は口を揃えて、「なんだ、やればできるんじゃん」なんて白い目で見てくる。大の大人が、地方派遣に自ら来て、「いや、お化けが怖いんですけど、誰かとルームシェアできませんか?」と初対面の人に相談するハードルを私は乗り越えることができなかった。また、縁もゆかりもない地で、自分でルームメイトを探すほど、体力も残っていなかった。そしてやっぱり夜は怖い。

でも、自分のペースというものを初めて知ることができた。人と住んでいるときは、相手がTVを観ていたら一緒に観るし、ご飯も食べる時間を合わせていた。寝る時間や起きる時間も夜勤の時以外はなるべく合わせるようにしていた。
それが一変、ボーっと見ていたCMに洗脳されなくて済み、本を読む時間がたくさんある。好きな時に、好きなものを作って、食べられる。お風呂の時間だって自由だ。部屋が汚れていても誰も気にしないし、きれいにしたいときも、誰にも気を使わなくていい。

こんなことを話すと、「だったら、東京帰ってきてからも一人暮らししたら」と母は言う。答えはNo。

「だって、お化けは怖いじゃん」