今月から新しい職場で働いている。転職期間のブランクがあったため最初は不安だったが、落ち着いて、良い意味でマイペースに仕事をさせてもらっている。「いきなり全部覚えなくてもいい」と言ってくれた先輩の言葉を励みに、前向きに業務と向き合えている。
一方、週に2回、バイトをしている。仕事内容はスナックの店員。人生で初めての水商売だ。
一年前の私は、水商売をしているだなんて思ってもいなかっただろう。しかし、そうせざるを得なかったのだ。ただ、スナックは水商売の中でも比較的安全だから、そこは安心していいよ、と当時の私に伝えておこう。
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前職を想定外の形で退職した私は、金銭面の不安が大きかった。失業手当をもらえると分かっていても、5桁の住民税や健康保険を定期的に支払うのは、正直つらかった。それに加え、転職活動でセミナーや面接に赴かなければならないから、交通費や身だしなみの費用がかかってしまう。
そこで、日中は転職活動、夜の時間を使ってバイトをすることにした。
金銭面の不安によって辿り着いたバイト先がスナックだった。時給もいい。
スナックでバイトすると決めた理由は他にもある。
まず、単純に人生経験として興味があった。某・朝のニュース番組に、「◯◯アナのスナック」みたいなコーナーがあったことを覚えている。スナックは、大人のお客さんがお酒を飲みながらママや店員と話して楽しむ、といったイメージがあったからだ。スナックが水商売に分類されると知ってからも、その印象は未だにある。
そして、人とのコミュニケーションなど、社会勉強をしたかった。スナックのお客さんは中年以上の男性が多い。前職では、その世代の男性社員とうまくコミュニケーションが取れなかった。なので、お客さん、特にその世代がどんなことを考えているのか、スナックを通して知りたかったのだ。
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とはいえ、水商売。最初は不安だった。しかし、思っていたよりもお客さんとのコミュニケーションは楽しい。
当たり前だが、お客さんにも色々な人がいる。仕事の鬱憤を晴らしたい人、常連でママや店員とお話したい人、カラオケを楽しみたい人。職種も建築作業員から個人経営、SDGsバッジをつけたスーツを身にまとう会社員など様々。共通しているのは、スナックが彼ら(たまに彼女ら)の拠り所の一つであること。
慣れてくると、お客さんに合わせて接客できるようになった。中には、出身地や学歴といった私のバックグラウンドに興味を持ってくれたり、お気に入りにしてくれたり、まるで父のように仕事ぶりや体調を気遣ってくれたお客さんもいた。苦手だったカラオケも、好きになれた。
もちろん、想定していたつらさを感じることもある。それは、いわゆる下ネタが多いこと。
幼い頃から下ネタが苦手で、女性同士の会話で発生した時も、適当に笑いながら流していた。でも、働きたいから、お金が欲しいから、そこは我慢しようと決めたのだ。
だが、直接的な下ネタはやはり気分が悪くなる。セクハラやパワハラが問題視されている昨今、職場での発言に気を遣いながら働いている人も多いだろう。その捌け口が水商売なのかもしれない。
女性同士の会話のようなスルースキルを発揮できた場面もあったが、そうはいかない場合もある。一部のお客さんは私の恋愛・性事情を根掘り葉掘り尋ねる。興味を持ってもらわないようにあしらっても、逆に食いついてくる。どうすれば良いのやら……。
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想定していなかったのは、「らしさ」を出しすぎてはいけないこと。ママに「お客さんに頭のいい話をしないでほしい」と言われた。お客さんは頭の悪い女の子を好むとのこと。「知的好奇心豊富な私」をスナックで出すのは、あまりよろしくないようだ。
こんな感じのスナックバイトだが、そろそろ卒業しようと思っている。
昼の本職との両立が体力的に厳しくなったためだ。週に2回、本職の定時1時間半後に、夜のバイトに出勤する。バイト後は速攻で就寝し、両方の仕事が休日の日は、疲れのせいで溶けたように寝込んでしまう。新しい職場で働き始めて半月で、このルーティンで働くのは危険だと感じた。
今月中にスナックバイトを辞める旨をママに伝えようと思う。
そして、ママをはじめとした店員やお客さんにお世話になった気持ちと、心身共につらかった事実に対し、自分の中でしっかり折り合いをつけたい。
本職の収入だけでは厳しいので、新しいバイトや副業も探している最中だ。できれば在宅がいい。心身に負担をかけないことが、今の自分にとって大切なことだから。