ずっと顎がコンプレックスだった。
きっかけはいつだっただろう。ただ自分の容姿を意識し始めた小学校高学年くらいから、なんとなく自分の顎が普通とは違って出ている、いわゆるしゃくれだということを自覚し始めて、コンプレックスになった。
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中学生の時、いじめに遭った。いじめはそれほど酷いものではなかったが、陰口を言われたり、直接ブスやしゃくれと言われてからかわれた。それによってコンプレックスはより根深くなった。
特に笑うと突き出て目立つ顎が嫌で、自然と口元を隠して笑うのがその頃から癖になった。
そして、大きくなったらいつか整形すると心に決めた。
大学に入って1年ほど経った頃、コロナウィルスが世界的に流行し始めた。今までの大学生活は一変、授業はリモートになりステイホームで家にこもりきりで、外出時にはマスクが必須になった。
人に会わない、顔も見せない生活。私は不謹慎ながらも整形するなら今しかないと感じ、背中を押されるように具体的に病院や手術を調べてカウンセリングに回り病院を決め、予約を入れていた。今思えば不気味なほどスムーズに決まり、一切迷いはなかった。コロナ禍で誰にも会わないあの特殊な状況が、私を突き動かしたのだろう。
いざ手術となると、やはり骨の整形は命にも関わるので急に怖くなったが、それよりも新しい自分に変われることへの期待も大きく、不安半分期待半分で手術台に乗った。
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次に目を覚ました時には、顔がぐるぐる巻きになっていた。麻酔のおかげで痛みはなかったが、自分の欲望のために健康な体を傷つけた痛々しい女の姿が鏡に写っていて、自分は整形をしたんだと実感した。
そして退院後は、別人のように腫れ上がった顔を見ては、このまま一生この顔だったらどうしようと鏡を見ては落ち込み、ネットで整形ブログや体験談を読み漁るのを交互にずっと繰り返した。
そんなこんなで1ヶ月、時が止まったように引きこもって鏡と携帯とにらめっこしている間にも時は過ぎ、私の顔の腫れはほとんど引いていた。
1番気にしていた横顔はかなり改善され、正面からの印象は一見変わらないが、写真を見比べると一回りすっきりしていた。後遺症も無く、整形は大成功だった。
整形のことは誰にも話していなかった。コロナ禍も一段落し大学も通学が再開され久しぶりに友人達と顔を合わせた時、整形がバレバレで不自然だったらどうしようとドキドキしていたが、誰にも気がつかれなかった。
中学からの10年来の親友にも自分から言うまで気がつかれなかった。親友に他人から見ても全く気が付かないくらいに自然だと言ってもらえたこと
で、安心したし自信になった。
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それから私はファッションに気を使い、メイクを研究するようになった。今まではどうせブスが努力しても、と無意識にストッパーをかけていたが、せっかく綺麗になったのだから、もっと綺麗になりたいと前向きになれた。
そのおかげか、友人には垢抜けたと言われ、初対面の人からも容姿を褒めてもらえることも増えてきて、性格も明るくなった。
そしていつの間にか、口元を隠して笑う癖が抜け、大きく笑えるようになっていた。
中学生の時に私の容姿の陰口を言ったりからかってきた人達のことは、今でもはっきり覚えている。中学生の多感な時期に容姿をからかわれるのは、一生の心の傷だ。
だからもし、いつか同窓会があれば私は彼らににっこりと微笑みたい。昔とは違って大きく、今の明るい私でしっかりと目を見て笑ってあげたい。きっとそれが1番のリベンジになるから。