人生初の「E:要精密検査」という文字。
「いつも通り大丈夫だろう」と思って、会社で開けてしまった健康診断結果。
あれから、私の生活は一変した。
このエッセイを書き始めた今、私は大学病院の待合室にいる。
20代で、大学病院に通院するような病気になるとは思っていなかった。
だから、いずれ治る病気だと分かっていても、急に自分が「ドラマのヒロイン」のように思えてくる。
そう、恋人が病気になってしまう純愛ドラマ。
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病気になると過去を振り返るというのはドラマのストーリー展開の定番だ。
昨日の夜、私はひとつ前の恋愛のことを振り返っていた。
その恋愛の相手は、私にとって最初で最後の浮気相手。そう、私は浮気相手を恋人にしてしまった。「好きになるわけない」と思っていた浮気相手を本気で好きになってしまった。
振り返るべきではなかったのかもしれないけれど、「あぁいい恋愛だった」と心から思えた夜だった。
同時に、「好きになった相手とは必ずしも幸せになれるわけではないこと」を痛感した夜だった。
その元彼氏との別れの原因は、第三者からすれば明らかに彼の二股なのだけれど、「二股相手」ではなく「彼が選んだ相手の女の子」と言っておきたい。
その元彼氏と別れてすぐの頃は、なぜだか様子が気になってしまって、彼のSNSをチェックしたり、彼が選んだ相手の女の子のSNSを見たりしていた。
「見ない方がいい」と分かっていたけれど、SNSの検索機能に名前を入力していた自分がいた。
私は「彼が選んだ相手の女の子」を憎んではいないし、直接話せるものなら、むしろ「開き直って2人の女の子と同時に付き合うような男で本当にいいの?」とお節介を焼いてしまいそうだ。
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この話はエッセイにはしないと心に決めていたのだけれど、少しだけ書いてしまうことを許してほしい。身勝手だけれど、文章にすることで、私の決断は間違っていなかったと思えるから。
私はあえて元彼氏に選択するチャンスを与えた。
どちらの女の子を選ぶのかを決めるチャンスを。
どんな人生を歩みたいか決めるチャンスを。
彼はきっと私を選ばないと、心のどこかで分かっていた。
浮気には色んな種類があると思う。身体の浮気と心の浮気。
身体の浮気なら、浮気をした人はただひたすら謝って、許しを請う。浮気をされた人には、許すか許さないかの決定権があり、主導権は浮気をされた人にある。
一方、心の浮気では、浮気をした人に主導権が移ってしまう。浮気をされた人は、「私のもとを去らないでほしい」と、浮気をした人に対してすがりついてしまう。
私が過去に一度してしまった浮気は、身体の浮気だった。その浮気相手と私は恋人関係になって、つまり、男を乗り換えた。
そして、その元浮気相手で、今では元彼氏となった男にされたのは、心の浮気だった。
浮気相手とは幸せにはなれない。だから、正直、私はその彼とは幸せにはなれなかったと思う。そんなこと分かっていたけれど、別れを選べるほど人間の心は強くないから、私はあえて、彼が私を振る瞬間を待っていたのだと思う。
この話を今の恋人にしたとき、彼は「かおりんは優しすぎるね」と悲しそうに言っていた。
優しさが裏目に出てしまったのかもしれない。恋人の気持ちが私だけではなく、他の誰かにも向いていると気づいたときに、別れておくべきだったのかもしれない。
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元彼氏が選んだ相手の女の子の名前さえ、記憶がおぼろげになった頃、ふと気になって「今ちゃんと幸せ?」とメッセージを送った。
あの別れ方を元彼氏は何度も謝ってくれるけれど、「この私をあんな形で振ったのだから、幸せになってよ」と思う。これは本心だ。
「二人はお似合いだから。もし別れたら私がえーって言っちゃう笑」という私からのメッセージに対して、元彼氏は「別れないよ笑」と。
仮に別れたとしても、私は元彼氏と復縁するつもりはない。ただ、「私よりルックスも良くて、賢い、もっと良い女と付き合ってよ」と思うときも正直ある。私の力が到底及ばないような絶世のバリキャリ美女を彼が選んでいたなら、もっと納得して別れることができたと思うから。
「別れないよ」というメッセージを見て、私も「別れないよ」と周りに豪語していた時期があったなぁと思った。
元彼氏の方が少し年上だけど、昔の私を見ているようだった。
もちろん、ずっと「別れない」関係性もあると思う。
死が二人を分かつまで一緒にいる関係性もあると思う。
ただ私はもう「別れないよ」と言うことをやめてしまった。
「別れ」には当事者が決めて実行するものもあれば、災害や病気、仕事など当事者の力だけでは何もできない場合もあるから。
自己努力ではどうしようもないことは、「そういう運命だったんだ」と思うようにしている。
運命には抗えない。物事が上手くいかないときは、天のせいにしてしまう方が、心が健康でいられる。
今の恋人とは、かなりの純愛を育んでいる感覚でいるのだけれど、今の恋人といつか別れる時も、悲しむことなく、私は美しく別れたい。