青い海と白い砂浜、大きなハンバーガーやナッツ入りチョコレート、可愛い水着を着てホテルのバルコニーから眺める夕陽。
皆さんは南国の楽園ハワイにどのようなイメージを持っているだろうか。

現在の夫となる彼にプロポーズされ、結婚式はどこで挙げるだの、誰を呼ぶだの、今考えたら恥ずかしくて嫌になるほどいちゃいちゃラブラブとしていたあの頃。
まだ20代半ばだった私は、ハワイに並々ならぬ憧れを抱いていた。

「新婚旅行はどこにいきたい?」
「ん~ハワイとか?」
「じゃあハワイにしよう!」
そんな適当なノリで決まった旅行先。
私はいつか彼とハワイに行きたい。

◎          ◎

2020年3月、私たちが入籍したとき、日本は未知のウイルスに侵略されつつあった。
「一時的なもの」
「夏を越えれば収まる」
あの時はみんなまだ、そう思っていたと思う。

しかし当時、旅行会社のコールセンターでツアーの受付をしていた私はそう思えなかった。
日に日に催行中止になるツアー、増え続けるキャンセルと問い合わせ、現地の旅行会社から伝えられる感染状況……。

海外旅行の受付部署にいたのだが、朝9時に始業してもほとんど電話は鳴らず、11時には早退をお願いされる日々。
これからどうなるんだろう。
コールセンターの誰もがそう思っていた。
その後、日本で初めての緊急事態宣言が発令。
新婚旅行どころか、私は収入がなくなった。

「あの時期に行くなんて」と否定されてもしょうがないが、新婚旅行は熱海。
ご祝儀のおまけで使用期限が近い招待券をもらい、せっかくだからという理由で海が見えるスーパー銭湯へ日帰り旅行。
海は繋がっているし、海鮮も食べたし、サフィール踊り子の乗り心地は快適。
ハワイとはかけ離れていたが、部屋に閉じこもって、叶わなかった憧れを考えているよりはマシだった。

◎          ◎

それから2年、私は20代後半になり第1子を妊娠中、主人は無事30歳になっていた。
少しずつ、今までの「普通」が戻ってきた2022年。
お風呂に入り、あとはダラダラするだけの土曜日の夜、テレビの番組表の1枠に目が留まる。アメリカへの渡航が可能になった記念にか、某旅行番組がハワイについて放送することを知った。
風呂上がりの主人とテレビ画面を眺める。
そこにはまさに憧れの景色があった。

泊まりたかったホテルや行きたかったビーチが映し出される度、ここに行きたい!という気持ちが再び膨らんでいく。
「将来子供が成人したら、行きたいね」
「子供のころから海外旅行なんて教育に悪いかな?」
どちらからともなく旅行の希望があふれる。
熱海が悪いわけではない、でも熱海とは異なる魅力がハワイにはあった。

たった3年で私たちも世の中も変わってしまった。
少しセクシーな水着を着たいと思っていた私のお腹には妊娠線ができてしまったし、彼のお腹はさらにぽよぽよになった。

学生時代、夢中になって勉強した英語はもうほとんど忘れた。
旅行会社でさんざん問い合わせに対応したESTAは、もう何が何だかわからない。
加えて円安と生まれてくる子供。
結婚して3年近くなってしまった今、もう既に「新婚」を語るにはトキメキがなくなってしまった。

◎          ◎

ハワイに行く頃には50代か60代か。
出産準備や教育資金のような目前のタスクですっかり隠れているけど、ふとした瞬間に遠くで相変わらずハワイは輝き続けている。
YouTubeで英会話の動画を見ているのも、図書館でうっすらほこりを被ったガイドブックを本棚から取り出しているのも、今はまだ彼には秘密。
あの時みたいに若くはないけれど、いつか必ず2人で行こう。
待ってろハワイ。