一人の時間は私の酸素だ。
何故私は、こんなにも一人の時間が好きなのだろうと考えてみても、物心ついた時からそうだったので、B型の性ということにでもしてみる。

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広めのカフェのような、クラブのようなお店を貸し切り立食パーティー形式で行った会社の忘年会。私は大きな柱の陰に小さなテーブルを見つけ、一人で黙々と立食を楽しんでいた。
柱の向こう側から、笑い声とお洒落なBGMが聞こえる。時折、拍手や歓声も聞こえてくる。
色鮮やかなサラダを食べながら、白ワインを飲む。甘さと爽やかさが口いっぱいに広がったかと思うと、喉にほどよい痺れを残しながら流れていく。至福……。

「何でそんなアウトローな場所におるん?」
ぎょっとして、柱の向こう側を覗くと、同じ部署の先輩の笑顔がこちらを見ている。
「こんなところ、フィー子みたいな子がおる場所じゃないよ」
と笑いながら続ける先輩。
私もにやりとしながら、
「いい場所、先に見つけちゃいました!」
と答える。

私は人見知りをするタイプではないし、会社の飲み会も好きで、色んな方に誘っていただいている。
そしてその飲み会で、ガンガン発言をするタイプなので、こんな柱の陰に隠れて一人で食べ飲みしているなんて意外だったのだろう。
「まあ、向こうじゃしっかり食べれんもんなあ」
「食い意地張ってここにいるわけじゃないですよ!」

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そういえば、高校生の時も仲が良い友達グループでお昼ご飯を食べるあの時間が時に息苦しくて、部活動の集まりがあるとか何とか言って、一人教室を出て、部室の裏でグラウンドを見ながらお昼ご飯を食べたことが何度もあった。
グラウンドには昼練中の野球部たちがいて、お互い声を掛け合いながら素振りや筋トレを行っている。
一人で食べるお昼ご飯のお供は、だいたい紙コップに入ったいちごみるく。
学校の自販機で一杯60円くらいで買えるそれは、見た目も味もとても可愛い。
冬はコーンポタージュになることもある。

友達のことは別に嫌いではないのだ。昼休憩が終わる5分前、教室に戻れば、彼女達はまだ話に熱中している。その中の誰か一人が私を見つけると、笑顔で手招きをして、昼休憩中に起きたこと、話したことの概要を教えてくれる。
すると、今日は彼女達とお昼ご飯を食べれば良かったかなと思ったりもする。
だが、先ほどまで過ごしていた一人の時間もかけがえの無い時間だ。野球部たちがキャッチボールを始めるようだ。彼らは朝も昼も放課後も一緒に練習をしている。

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私のような人は、この中にいないのだろうか。
きっといるはずだ。そして、お手洗いには必ず一人で行くとか、帰宅したら自室に篭るとか、そういうことでバランスをとっているに違いない。
にしても、昼ご飯を急いで食べて休憩時間も練習をするなんて野球部は大変だなあ。
活気ある練習の様子を見ながら、彼らの体力を感じる。

一人の時間が好き。
たぶん私は、一人でぼーっと喧騒を眺めているのが好きなのだと思う。
私は本当の「一人っきり」には耐えられない。
そこに血の通った音声と動きとが聞こえて見えるからこそ、私は休息ができる。
就職活動中、一人でビジネスホテルに泊まった時、部屋に一人でいると不安と寂しさが押し寄せてきて、行き着いた先はロビーのカフェスペースの隅だった。近くに誰かの気配がして、でも決してその誰かと関わるわけではなく、ひとり。
集団の近くの一人、あるいは集団の中の一匹狼が私は心地よいのだ。

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例の「アウトローな場所」では、私と先輩はその後一切会話をすることなく、お互い一人の時間を楽しんでいた。
にしても、会社の忘年会でこんなはっちゃけたお店を貸し切るなんて楽しすぎる。社員の平均年齢も高く、男性が多いのに。
無駄におしゃれだし、DJいるし……。
そして、忙しなく移動するカラフルな丸い光と、鏡張りの店内を見ながら白ワインをぐっと飲み干す。
天井の鏡に私と、先輩の姿が映っている。