「今度IKEA行くけど睡蓮も行く?」
「行く!」
一人暮らし9年目、一人暮らしの楽しみを感じる冬。

高校の先生に言われるがまま書いた、形だけの第二志望。
まさかそこに行くことになるとはつゆも思っていなかった高三の冬。
テストの名前を書き忘れた。
ただそれだけのことで、私は泣きながら十八年過ごした土地を離れることになってしまった。

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大学進学を機に始めた一人暮らし、正直入学した瞬間からやめたかった。
ここで過ごすのは四年だけだからと、卒業するまで私は最低限の家具以外一切ものを増やさなかった。入学時から卒業の引っ越しを見据えたこの生活は、元々物欲のない自分とうまいこと噛み合い、思ったより苦ではなかった。
しかし、大学生活の途中、彼氏の家で半同棲のようなことをしていた時は、週に一度あるかどうかという頻度でしか自分の部屋に帰らなくなった。一度温もりを感じた後に訪れると、自分の部屋がひどく味気なく、まるで倉庫のように感じた。
半同棲を解消し、結局大学院まで行ったため、約六年間をその部屋で過ごした。
全く思い入れのない部屋。しかしオーナーに鍵を渡したときは少しだけ胸が熱くなった。

社会人になり、新たな土地での生活が始まった。
しかし、私は大学六年間の癖が抜けずにいた。
必要最低限な物しか部屋に置かない、コロナで自宅待機が多くなっていた私にとって、味気ない倉庫のような部屋で生活することは苦痛以外の何者でもなかった。
しかし、外出することも許されない。
社会人一年目が終わる頃、私は生きる部屋から住む部屋を作り出すプロジェクトを始めた。

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世はコロナ真っ盛り、未知のウイルスの煽りをダイレクトに受けた我が会社は、ボーナス及び月の給料のカットまで行うほど逼迫していた。
雀の涙ほどしかない給料で最低限生きていくためのお金を引き、残ったお金を使って私は地道に部屋のリフォームに勤しんだ。

まず初めに取り掛かったのは、部屋全体の色味を統一させること。
大学入学時に買ったものは一つ一つは可愛かったが、部屋全体として見ると色の統一が取れておらず、チグハグな印象を受ける部屋となっていた。
徐々に外出規制が緩み、出かけることが許されるようになってからは、ネットと合わせて多くの商品を吟味した。
そして、運命のXデー、選び抜いた商品を一日かけて買いに回り家の大改造を行った。
カーテンとベッドのカバーをベージュへと変え、ガラスのサイドテーブルと、真鍮でできたスタンドライトを添えた。
部屋のラグも、毛が長いふわふわしたオフホワイトのラグをチョイス。
仕上げにハニカムミラーを壁へと設置すれば、思わず某番組の匠もびっくりするほどの統一感溢れた部屋が完成した。
その日の夜は、いつもよりぐっすり寝れた気がした。

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あの日から今に至るまで、私の部屋の進化は止まらない。
最近は、韓国風のイラストのタペストリーを購入し、電池式の電飾で囲い壁へと飾った。部屋のライトを落とし、電飾を灯すと思わず感嘆してしまうほどのおしゃれな空間が出来上がる。それを見ながらMacでクリスマスソングメドレーを流し、紅茶でも飲んでいる姿を想像してほしい。それだけですごくいい女な気がする。
そう、「住む」へと部屋をアップデートすることは自身の生活を豊かにすることを知った。

ただでさえ一人暮らしは孤独を感じやすいにも関わらず、これからの季節、木枯らしが吹き街にはカップルが溢れ、より一層孤独を感じやすい季節であると、独身の私は思う。
けれど、自分だけの王国、自分だけのための世界があるというだけでいくばくかの寂しさが紛れるのではないだろうか。
一人暮らしだからこそできる楽しさを一緒に思う存分味わってみようじゃないか。