「もしもし」
「今から会いに行ってもいい?」
「あと〇日、仕事頑張ったら会えるね!」
「〇時に迎え行くから待っててね」
「バイバイするの寂しいな……」
……が無くなった。

◎          ◎

半同棲生活を始めて、一年が経った。
私が実家を出て一人暮らしをすることをきっかけに、私の名義の賃貸に彼が週の半分は一緒に暮らすことが決まった。
基本、私が毎日アパートにいて、彼は実家とアパートの行き来をする。

会いたい時に会えない。デート前のやり取りは楽しみで嬉しかったけど、デートが終わると別々の家に帰らなければいけない。
声を聞くのは通話に限り、寝落ち通話は当たり前。
お互い、実家暮らしの時は寂しくて、ずっと一緒にいたいと何度も思った。
それが叶っている今、当時の初々しい2人の懐かしさと同時に冒頭のようなあの時にしていた会話が聞けなくなった寂しさで少し複雑だ。

会いたいときに会えて、週の半分以上は私の家で私が作ったご飯を食べて。早起きして彼にお弁当を作って朝のお見送りをして。
デートの予定は一緒に携帯を見せ合いながら決めたり、夜が明けるまで映画を見ながらお酒を飲んだり。
お出かけが終わると一緒に家に帰って夜ご飯の支度をして一緒にお風呂に入ったり。
一日の思い出話をしながらベットに入って、彼の腕枕でぬくもりを感じながら寝て。
こんなに幸せな日々はもう無いと思いながら一年が経った。

◎          ◎

彼とは根本的な相性が合うのか、一緒にいて喧嘩や揉め事をしたことはあまりない。
お互いに必要以上に干渉することもないので居心地がいい。

日々の生活の中で、価値観の違いや新しい発見が見つかったり意見が合わないことや喧嘩もあった。
一番大変だったのは、料理の好みだった。
基本的に私は薄味を好み、野菜中心で偏食的な食生活に比べ、彼は味が濃いものを好み食事にはお肉が必須でお味噌汁は赤味噌派な上に一回の食べる量も男の子らしい一人前以上。
実家に住んでいた頃のデートでご飯を食べに行く時では分かりきれないこだわりに最初は戸惑った。
試行錯誤を繰り返し、今では彼の好みをわかりつくし毎度満点評価を貰えるようになった。
美味しい美味しいと食べてくれる彼を横に、食のレパートリーが増えていく毎日。
今では私も濃い味が好きになり、今まで挑戦してこなかったものが彼の影響で好きになった。

彼が喜んでくれる姿を想像しながら御飯を作ったり、スーパーで美味しそうなものがあったら彼が来た時に一緒に食べようと買って行ったり。
私の生活の中心には彼がいるようになっていた。

家庭環境、育った環境が違うからこそ理解できないこともあるけれど大好きな人と一緒に居られるということは何にも代えることのできない幸せなのだとつくづく思う。
そして今日も私は彼色に染まっていくのだ。

花嫁修業の一環として、彼に似合う女性になれることを目標に今ある生活を大切にしていきたい。