「お姉ちゃんなんて、誰にも愛されてないじゃん!」
自他ともに認めるお姉ちゃんっ子のくせに、そんなことを口走ってしまったことがある。自分が一番お姉ちゃんのことが大好きなのに、口喧嘩で負けそうになった時、言ってしまった。

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私の姉は二人いる。一番上はとにかく自由人。自分で行きたいと言っていた専門学校をさぼりまくった挙句、妊娠して実家に帰ってきた。父はそんな一番上の姉をどうにか社会に出すために手にかけて育てていた。いつも叱りつつも、さぼっていたときも、実家から通うのがしんどいからだと勘違いして、学校の近くにわざわざ部屋を借りて住まわせてしまった。社会経験として、高校生では異常な長時間アルバイトも許可していた。
そんな上を見ていたからか、2番目の姉は、とても真面目だった。とてつもなく勉強をするし、家事も一番にやっていた。親が学校に呼び出されたこともない。中学時代の親が家にいない期間もずっと一緒にいてくれた。そんな姉に憧れていたし、大好きだった。

そんな2番目の姉は、親からしてみれば、手がかからない子供だったのだと思う。私や一番上と違って、怒られる回数も少なかった。だから、母も父もどうしても放っておいてしまったのだと思う。
離婚してから、私が一時期母方へ住んでいたこともあり、私だけ月に一度母に会いに行っていた。姉は、迷惑を掛けると勘違いして一緒に行くことは少なかった。だから自然と、姉の中で「父は一番上、母は三番目がお気に入り」、という構図を作り上げてしまっていたのだと大人になってから言われた。

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そんなとき、私が母から渡されていたPASMOの残高が減っていた。探し始めて数時間後、さっき見たはずの部屋に転がっていた。
今思えば、姉妹間でPASMOの有無で差があってはいけないし、私への嫉妬のこもったいたずらだったのだと思う。でも、盗みは盗み。私は自分が恵んでもらったことを棚に上げ、お姉ちゃんに詰めた。当然認めない。感情のコントロールもまだままならない中学生の姉妹の、近所に響き渡るような大喧嘩が始まった。
姉は勉強ができる。そして本が大好きなため、ボキャブラリー量が圧倒的に勝っていた。ふと、「あんたはお母さんに愛されてていいね」と以前、姉が口にした言葉を思い出してしまった。

「お姉ちゃんなんて、誰にも愛されてないじゃん!」

しばらく沈黙が流れて、お姉ちゃんの目から涙が溢れてきた。何を言っても今更遅い。
少しずつ私の日常から姉がいなくなっていった。家に帰っても部屋に籠って、ご飯も食べに出てきてくれない。二人暮らしだったから、なお寂しかった。居てもたってもいられず、母に相談した。
「バカ、そんなわけあるわけない」と怒られ、母が駆けつけてくれた。小一時間、母と姉が話した後、やっと私に謝る機会をくれた。

今でも姉は、その言葉をたまに思い出すらしい。次に思い出したら、ちゃんと伝えたい。

「私は大好きだよ、いつもありがとう」