アフターピルを飲んだ。
昨日の夜、「アフターピル」とSNSで検索したら、吐き気がものすごいと書いてあった。朝一番の宅配でピルを受け取ってからすぐに飲み、5時間が経過。米を食べても吐き気はない。けど、この気持ちのはけ口がないとやっていけなさそうだ。
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ベランダから外を見ると、冬晴れの午後の日差しがあたたかい。そのあたたかさから隠れるように、アフターピルを飲んだってだけの事実を飲み込んでいる。
アフターピルは基本的に、行為後72時間以内に服用する必要がある。私は72時間前、無条件に誰かに抱きしめてほしかったのだった。
怒りや悲しみ、悔しさが溢れる時、第三者だからこそ話しやすかったりする。だから無条件に抱きしめてもらったのだった、第三者に。
74時間前、初めて会う彼は写真の通り誠実な印象だった。誠実ではある。ひとつひとつ行為を進めていく上で、痛くない?ここまでにしようか?聞きながら進めてくれた。
彼の腕と背中にしがみつきながら、段々と身を委ねていく。もっと先へ進んでもいい、進みたい。そう思うようになった。
挿れないから、ズボン脱いでもいい?
その言葉の意味をもっと考えればよかったなと、少し悔しい。生々しい感覚が下の方をつたう。中に入りそうになった時、世界観に浸ってしまう私を「これ以上は一線越えちゃうよ」と彼は諌めてくれた。「俺もこれ以上は理性保てないよ」と。ほんとに、誠実ではあるんだと思う。
最中は楽しかったし、気持ちよかった。このところたまっていたストレスが、ゆっくりと発散されていく感じ。ゆっくりと、久しぶりに、女であることを自覚していく時間。心地よかったのであった。
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それが60時間前、急激に不安になった。自室で彼との時間を振り返っていると、あの生々しい感覚を思い出す。生々しいというか、生だったんだ。生……。
「謙虚じゃなくてごめんね」
事後、帰宅すると、彼からそんなメッセージをもらった。謙虚ではないね。でも見せかけだけでも誠実だったとは思う。NOが言えなかったんだ、私、バカ。
72時間前、楽しさと気持ちよさで「大丈夫?」と聞かれても「うん」としか答えられなかった。それが悔しい。悔しさと共に、下腹部に妙な重い痛みを感じる。気のせいだと言い聞かせている。
挿れてはない。が、何か間違いがあったら……。
59時間前、「産婦人科 ピル」と検索をかけ始めた。まだ50時間リミットが残されていることを知る。これで万が一間違いがあったら、笑ってやろうかな。
アフターピルを発注してから配送されるまでの24時間、もし彼にもう一度会うとしたら、なんて話すかを考えていた。
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「この前はありがとう。
楽しかったし気持ちよかったけど、次の日冷静になった時に、ものすごく不安になったんだよね。
自分が悪いんだけど、Noが言えなかった。
だって楽しい気持ちがあったからね。
でも冷静になってみると、やっぱり挿れてなくとも生は、こわい。
私あの日、すごい緊張の中で、無条件に抱きしめてくれる人を探すために行ったんだよね。
それで安心したかったんだけど、その場は安心したんだけど、なんか最終的にものすごく不安な気持ちだけ残った。
これはエゴなんだけど、会ってとても不安になった、という思い出にしたくなくって、不安に感じたのは自分の責任なのだけど。
あと、不安に思うと同時に、とても悔しくなった。
リスキーなことがあった時に、不安や負担を感じるのは、自分が女だからだって。
あの日楽しかった気持ちと、自分が女であることを否定したくないから、今日はちゃんと気持ちを伝えたいと思ったよ。
楽しい気持ちで、あの日のモヤモヤを解消したいと思ってるよ」
そしてアフターピルを飲んだ。初めてだった。アフターピルを飲み込むのも、誰も責められないと思うこの気持ちも。
12時間前くらいまで逡巡していた気持ちが、冬晴れの空に溶けていく。もし万が一のことが起こったら。そんなことは起こった時に考えよう。できる限りのことはやったのだ。
いつだって、絶対は、ない。
ベランダの中に入ると、部屋の方があたたかいことに気がついた。
大丈夫、寒いのは私だけじゃないから。