私は大学進学を機に、大学のある関東に出て一人暮らしを始めた。
いや、二人暮らしかもしれない。
実家で引っ越しに向けて荷造りをしていたとき、母が笑いながら尋ねた。
「お前、それ持って行くの?」
私は当たり前のようにプーさんのぬいぐるみをキャリーケースに詰めていた。
◎ ◎
プーさんのぬいぐるみは、たしか小学校低学年の時にゲームセンターでとったものだ。当時いくつかのぬいぐるみを持っており、そのほとんどがベッドに置かれていた。このプーさんが特にお気に入りで、これだけを抱きしめながら眠りについていた。
大学に進学しても、その習慣は変わらなかった。眠りのお供として、欠かせない存在だったのだ。プーさんはうつ伏せで眠っている体勢だから、むしろ私がプーさんの眠りのお供をしていたかもしれない。昔から抱きしめすぎて、腕の中綿が千切れてしまったけども。
留学を決めた時に、現地にプーさんを連れて行こうと思ったが、周囲から変な視線を感じたり、プーさん自身のリスクを回避するため、連れて行くのを諦めた。
それくらい、プーさんの存在が当たり前だった。
つい最近まで、それが日常だったある日。新しい仲間が増えた。ポケモンのアチャモのぬいぐるみだ。
たまたまウロウロしていたゲームセンターで、クレーンゲームの機械の中にいたアチャモと目が合った。私のゲームデビューはポケモンのルビー・サファイア、最初のパートナーがアチャモだった。クレーンゲームをするのは10数年振りだったが、数百円の課金のみで、吸い込まれるようにゲットした。
◎ ◎
プーさんと同様、ベッドに置き、眠りについてみた。だけど、何だか落ちかない。とりあえず、アチャモをベッドから出して眠りについた。
そして、アチャモをまじまじと観察してみた。ポケモンの公式設定とほぼ同じサイズ。大きなくりくりとした目をこちらに向けて、ちょこんと立っている。
思わず抱きしめたくなって、抱きしめてみた。
人生最初のパートナーを抱きしめている……。うまく言葉で表現できないくらい幸福な気持ちでいっぱいになった。そして、抱えていたモヤモヤした感情が、少しスッキリした。
こうして私とプーさん、新しい仲間のアチャモが加わった三人暮らしが始まった。
……まあ、一人暮らしなのだが、眠りのお供のプーさん、つらい時のお供のアチャモがいることで、それほど寂しくない生活を送っている。
ちなみに、アチャモを迎え入れてすぐ、四人目を探しにゲームセンターに行ったが、一緒に過ごしたいと思ったぬいぐるみを、千円近く課金してもゲットできなかった。しばらくは三人で過ごしてみろ、ということだろう。でも、今のままでも十分だ。
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仕事や私生活の中で、どうしても拭いきれない悔しさや寂しさを感じる時がある。そんな時は、二人に身を委ねよう。何も言わず、味方でいてくれる。
アラサーだが、あと数年はぬいぐるみ離れできないだろうな……。