建物に遮られず、こんなにも綺麗な水平線を見たのは久しぶりだった。
裸足で砂浜を歩き、どこまでも続く青空と水平線をただ眺めていた。

勤めていた会社を退職。仕事に明け暮れ不条理さに泣き、限界だった

勤めていた会社を退職した。
繁忙期には朝方まで勤務することもあり、ニュースで顔を見るような人物と仕事をするときは、胃の痛くなるようなプレッシャーと、どう役に立つのか分からない「念の為」の準備に深夜まで明け暮れた。
勤務後に予定があっても、担当案件の「呼び出し」があれば、ドタキャンをせざるを得なかった。日付の感覚も甘くなり、友達と約束しているのを翌日だと思い込んですっぽかすことも。この数年で何度友達に謝ったか分からない。
よく声を掛けてくれていた友達からも、いつのまにか連絡がなくなった。

それでも自分の仕事が世の中の役に立つならと、真摯にやってきたつもりだった。
ある日、求められている確認プロセスに穴が空いていることが分かり、上司は私を連れて、自分の上司に「彼女も経験が少ないので」と謝罪して回った。
確認プロセスを許可したのはその上司だった。限界だった。その日初めて職場で、信頼のできる同僚に、声をあげてあまりの不条理さに泣いた。

「これからどうするの」
そんな質問を何度か受けたが、分からない。
目指すものはあるが、簡単に手に入る仕事ではない。手に入れるまでにまた、時間と忍耐力を要するだろう。
それでも挑戦するつもりでいる自分に、すでに心はボロボロなのに、意外と強いものだと笑えてきた。

最終勤務を終えて東京を離陸。隣には一緒に戦い続けてくれたパートナー

飛行機から見た東京は美しかった。住み慣れているし、何でもある。
「何でもあるけど何にもない」と表現されることもあるが、都会といえど地方から集まる人々ばかりのため、境遇を分かち合えることも多かった。
新しい友達、同じ分野を目指す人々、そんな人たちと出会えるのもまた、東京だ。

旅に出る直前まで勤務していたため、離陸と同時に眠りについた。
最近は週末にどれだけ寝ても疲れが取れることがなく、いつも倦怠感があった。
読むつもりだった本を手に、夢も見ない深い眠りにつく。起きて横を見ると隣にいるのは、一緒に戦い続けてくれたパートナーだ。

時間を気にせず、美味しいものを食べて、友人、家族と食事をする。
お酒を飲んで、楽しく笑う。気まぐれにショッピングをする。落ち着いたカフェでゆっくりパートナーと話す。
なんてことはない時間をただ過ごすことが、急速に疲れを癒してくれた。

これからどうするか、明確な答えなんて分からないけど進んでいくだけ

仕事もハードだったが、それを理由に努力不足な自分もいた。仕事で行けないことは仕方なくとも、その後のフォローや細かいコミュニケーションが足りなかった。そういった自分のダメなところ、甘いところも見えてきた。
忙しい内は「こんな自分が嫌だ」となっていたが、余裕が出て、感情に左右されず冷静に自分を見れる部分も出てくる。

「これからどうするの」
分からない。でも、信頼できる人はみんな、「まあ、あなたなら大丈夫」と一緒に余裕を持ってくれた。

旅は好きな人との時間、自分との会話、自分を癒し愛することの大切さを教えてくれた。
辛いことも多かったけれど、穏やかな心で思い起こすのは、支えてくれた同僚や、自分を信頼し仕事を任せてくれた上司のこと。
これからどうするか、明確な答えなんて分からないが、目指すものに向かって、今まで通り、回り道になっても、進んでいくだけだ。
足元の砂を払って靴を履く。目の前に広がる海は美しく、本当に穏やかだ。

大丈夫、私なら。この旅がそう教えてくれたから。