隣の芝生は、いつだって青く見える。

生まれつきの丸顔に、バレーボール部時代に鍛えたがっしりとした太もも。BMIでいうと22の体型は、世間的にいうとぽっちゃり。奥二重で、化粧映えしない顔は、つけまつげやカラーコンタクトをしても理想とは程遠い。友達は可愛く変身しているのに、私は……。

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高校生時代、異常なほど自分が嫌いだった。偶然にも、当時仲の良かった5人グループの子は全員、細身で美意識が高く、引けを取らないよう、雑誌を読み漁ってファッションやメイクを学んだ。なのに、いつまでたっても納得のいく私にはなれなかった。
放課後、街でナンパされることもしばしばあったが、声を掛けてくる男性は友達にばかり話を振る。「太っている」「不細工」。言われたわけではないのに、そう言われている気がした。

それでも、恋愛に発展しそうな男性が何人かいた。同じクラスで、目鼻立ちが整った彼は、なぜかよくカラオケに誘ってくれた。クラスは違うけど、当時流行していたmixiをきっかけに交流が始まった野球部の彼とは、おはようからおやすみまで毎日、長文メールのやりとりをしていた。
この人と付き合えたらな。
思っても自信が持てず、最後の一歩が踏み出せないまま発展せずに終わった。

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友人関係がきっかけで失った自信を取り戻すため、利用したのも友達だった。
2年生の時、アルバイト先で仲良くなった彼女は、大食いなのにミニスカート、ショートパンツを難なく着こなすスタイルの持ち主だった。おまけに人に甘えるのが上手で、自由奔放で。自分の長女気質の私とは正反対。容姿や性格、何もかもうらやましくて仕方がなかった。
そんな彼女が、バイト仲間で3歳年上の大学生に恋をした。どちらかというと可愛い系の顔で、控えめな性格の男性。どこがいいのか、正直分からなかった。
そんな彼はどうやら、シフトがよく被って話す機会の多い私に気を持ち始めていた。
「彼女に勝ちたい」。鎌をかけた。
3回のデートを重ね、彼は落ちた。

「実はさ、彼に付き合ってほしいって告白されたの。あなたの気持ちを考えると、どうしたらいいか分からなくて……」
よくこんなことが言えたな、と過去の自分を咎めたくなるが、あの時は優越感に浸っていた。
満たされたのは一瞬だけだった。彼と過ごす時間の密度が濃くなり、受ける愛が深まるのに比例して、罪悪感が強くなった。自分の劣等感を払拭するためだけに、どうして誰も幸せにならない恋愛を進めたのか。もっと、私が嫌いになった。
アルバイトを辞めたのを機に、彼女や彼とは自然と連絡を取らなくなった。申し訳ない気持ちは、いまだに消えない。でも、いちばん謝らなければいけないのは、コンプレックスばかり突きつけて惨めな思いをさせた、過去の私なのかもしれない。

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あれから12歳、年を重ねる中で何度もダイエットに挑み、成功と失敗を繰り返しながら10キロ近く痩せた。自分に合った化粧が分かってきて、それなりに満足できる顔に仕上げられるようになったし、何より、縁のあった人を傷つけず、大切しようと心掛けている。
あの時の嫌いな私とはさよならできた。それでもまた、新しい弱点を見つけて闘っている。

自分を好きになるって、この世で最も難しいんじゃないだろうか。きっと一生、100%認められる私にはなれないから。それなら、今の自分を許して、愛してあげよう。
私が思っている以上に、私は悪くない。だから、もう人を不幸にしてしまったと、後悔するようなことはしないで。