渋谷駅から羽田空港に行くには、一旦JR山手線で品川まで出る。そして京急蒲田で乗り換えて羽田空港第1・第2ターミナル駅で降りる。
今となっては当たり前に移動ができるようになった私だが、数年前までは東京の電車は攻略不可能だと思っていた。
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九州出身の私は、高校の修学旅行先が東京だった。東京に降り立ったのはそれが初めてだ。
1日目と2日目はバスで移動して何の問題もなかったが、3日目は班で都内を自由に行動する計画だった。
予めウェブサイトや旅行誌から行きたいところは決めていたが、いざ電車に乗ろうとすると目的の駅の名前がない。具体的に言うと、要町から原宿に行きたかったのだが、原宿駅が見当たらないのだ。駅員さんに「原宿に行きたいんですけど、ここから行けますか」と聞くと、「明治神宮前で降りれば行けますよ」とのことだった。
確かに明治神宮前という駅名の後ろには括弧付きで原宿と書かれているが、旅行誌で見たときの最寄りの駅はまごうことなき「原宿駅」だった。何がどう違うのかさっぱりわからないが、とりあえず駅員さんの言うことを信じて明治神宮前(原宿)で降りることにした。
今では上の状況もすべて理解できる。私たちが乗ったのは副都心線という路線で、降り立ったのは原宿駅とは少し離れた青山に近い原宿だ。しかし当時の私たちには未知の世界で、ちょっとお高そうな店が立ち並ぶ並木道を無駄に散策した挙句、原宿駅のすぐ目の前にあると書かれていた竹下通りには辿り着けなかった。
旅行誌を信じてはいけないと思い込んだ私たちは、結局渋谷のスクランブル交差点にも、新宿御苑にも、東京タワーにも東京スカイツリーにも行かず、LINEショップとクレープだけ食べてホテルに戻った。田舎者は東京の電車とは分かり合えない、と若干不貞腐れた。
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しかし、東京の大学に進学を決めてしまった私は、高校を卒業してすぐ上京した。しかも大学のキャンパスはあろうことか大都会、渋谷。初日は緊張で手汗をかいたが、一回行けば大学と家の最寄り駅の行き来くらいはできるようになった。
上京して早2年、先月父が仕事の関係で東京に来た。錦糸町で開催される会議に参加するためだ。
しかし、父が取ったホテルは横浜みなとみらい。なぜそんなところに、と思うかもしれないが、都会を知らない人間にとって土地勘なんてないようなものだ。
田舎はすべてが車移動のため、電車の乗り換えがどうとか位置関係がどうとかは知ったこっちゃない。案の定、「みなとみらいから錦糸町までの行き方を教えてくれ」と言われたのだった。
教えるのも難しいので、私はみなとみらいまで迎えに行って、錦糸町まで1本で行ける横浜で見送ることにした。
驚いたのは、父は切符を買うことさえままならないということだった。
財布ごと渡されて丸投げ。父の分の切符を買って渡すと、「帰りどうしよう」と嘆いていたが、その様子を見てかつての自分を思い出した。さすがに切符を買うことには困らなかったが、人が行き交う改札で右往左往し、目的地までの行き方がこれであっているのかわからず混乱した。乗り換えはうまくいくか、切符は買い間違えていないか、考えれば考えるほど不安点は思いつくものだ。
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今となっては行きたいところに行きたい時間に行ける。案内してと言われれば大都会渋谷だってちょちょいのちょいだ。結局初めてはなんでもうまくいかないもので、慣れればすべてなんてことない事だったりするのだ。
修学旅行で東京の電車とは分かり合えないと不貞腐れた、あの日の自分に言いたい。
嫌でもあなたは東京に染まりますよ、と。