小学生の頃、プロフィール帳の交換が流行っていた。私も例に漏れず、プロフィール帳を書いたり、書いてもらったりした。

「わたし、【佐藤すだれ】みんなからは【すーちゃん】ってよばれているよ!」みたいな始まりをしていたか。好きなものランキングとか、心理テストコーナーとか、とにかく子ども心をくすぐるセンテンスに溢れていたと思う。私は、自分が書くのも好きだし、他の人が書いたのを見るのはもっと好きだった。

そしてプロフィール帳の中にはよく、こんな質問があった。
「百万円あったらなにに使う?」

Aちゃんは「家を買う」と書いていた。限定一棟98万円の家(土地代抜き)だってある。
Bちゃんは「お菓子をたくさん買う!」と書いていた。駄菓子屋ごと買えそうだ……もしかして駄菓子屋を買うことが「家を買う」のかもしれない。

面白味のない少女の私は「貯金する」と書いていた。さすがにつまらなすぎる。その時のほうが、今よりも現実的だったのか。いや、逆だ。「百万円」なんて大きすぎる金額、どう使えば良いのか全く見当もつかなかったのだ。

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早くもアラサーになり、社会人生活も5年が経った今の私は、「百万円あったらなにに使う?」にどう答えるだろうかと、ふと空想を広げてみた。

まず、貯金には使わない。経済は回してなんぼだし、貯金したところでロクに利子もつかないし第一、私は金欠である。百万円なんてわがまま言わないから、一万円でいいからほしい。おいしいご飯とか食べたい。あと友達とユニバとか行きたい。

……話を戻すが、私は百万円でやりたいことがたくさんある。
まずはおいしいご飯をたくさん食べたい。できれば家族とか友達とかを招待して豪華なディナーをしたい。例えば家族3人で結構良いディナーをしたとして、残り90万円。

次は旅行に使いたい。海外旅行だったらもうお金がなくなりそうなので、とりあえず国内で良い。豪華なグランピングもしたい。できれば1週間くらいダラダラと過ごしたい。
1人で行きたいが2人以上の場所ばかりなので友人を連れて行こう。1泊1人1万円くらいするので、2人で7泊して14万円。残り76万円。

その次は、いい家具とパソコンとテレビと美顔器とドライヤーとマッサージチェアを買いたい。いい感じのベッドと椅子と机を買って、パソコンもまあまあ使いやすいものが欲しい。ついでにiPadも買ってしまおう。

残り16万円。ブランドのバッグも欲しいしアクセサリーも欲しい。……もう百万円を超えた。早すぎる。買いたいもの、まだまだあるのに。

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「まあ百万円が手に入ったところで、1年分の家賃にもならないんだよな」と冷静な自分もいた。大人になるのは、なんてつまらないのだろう。

百万円はすごい金額だ。だけど、そこまですごい金額でもない。ちょっと頑張れば手に入る額だ。だけど、自分が稼ぐ百万円は、全額好き勝手使えるわけじゃない。日々の生活で少しずつ、少しずつ、勝手に消えていく。砂のようなお金だ。

百万円の価値は、私にとって下がってしまったのか。それとも、私が夢を見られなくなっただけなのか。はたまた、現実が無情すぎるだけなのか。