この一年でわたしは、色々なところに行けるようになった。新幹線に乗り、旅先のホテルに泊まり、一人旅なんかしたりもした。
だけど、一番成長したと思う出来事は、夢への一歩を踏み出せたことだと思う。これはわたしにとっては、大きな一歩だ。
春に出会った、大学で同じ講義をとっていたある男子が、わたしに好意を寄せてくれた。異性と一緒にどこかへ出かけて、プレゼントをもらい、告白される。生まれてはじめてのことに、わたしは舞い上がっていたのだと思う。
それまでわたしは「彼氏いない歴=年齢」に強いコンプレックスを持っていたこともあり、二つ返事でOKを出した。つき合うとはどういう意味なのか、何も分かっていなかった。やさしくて穏やかな性格の彼は、わたしにはもったいないくらいの人だった。
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彼の誕生日の日、今までで一番の誕生日だよと喜んでくれて、わたしも嬉しかった。だけど、彼との関係を続けるうちに、それがだんだん負担に感じるようになった。
彼は毎日でも会いたい、と望んでいた。一方のわたしは、やりたいことがたくさんあったため、会うのは二週間に一度くらいがいいな、と思っていた。
わたしは大学で建築を勉強していて、卒業後に一級建築士の資格を取る予定だ。だけど、建築の授業は課題が大変で、一日中製図室にこもっていることだってある。
また、わたしは来年一年間、留学しようと思っていて、そのために英語の試験勉強や書かなければならない書類があった。それからわたしは、教育にも興味があったため、工業の免許を取るために教職の授業も履修していた。
そして。わたしは趣味で、小説を書いている。高校生のときは地域単位の小さなコンクールに応募しては、賞を取ったこともあった。しかし、大学に入ってからは中々時間が取れず、出そうと思っていたコンクールや公募の締め切りに間に合わないことがよくあった。
書いて、出さなければ何も始まらない。さらにバイトやサークルの時間に彼と過ごす時間を加算すると、わたしのキャパは限界値に達した。
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空いた時間には少しでも小説を進めたいし、課題をして他のことに時間を使いたかった。会わなきゃという義務感と、自分の時間がなくなっていくことに焦燥感を覚えるそんな日々が、苦しかった。
別れる、という単語が頭に浮かんだとき、わたしは迷った。
こんなわたしのことを想ってくれる人は、今後一生現れないかもしれない。彼を捨てたら、わたしは一人になる。インターネットの検索履歴には「彼氏、会いたくない」の文字が並んだ。
そんなときだった。SNSで見つけたことばに、手放して空いた場所にはいいものがやってくる、とあった。わたしは彼を手放すことで、何を手に入れられるだろうか。
葛藤の末にわたしが下した結論は、別れるという選択肢だった。
わたしは今は、自分の夢を叶えることに集中したい。彼と話した最後の日は、どうやって別れを切り出そうかと、ごめんなさいという気持ちでいっぱいだったけれど。
傷が浅いうちに離れられてよかった、と今となってはそう思う。それ以来わたしは、彼氏をつくっていない。
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先日、短編小説を出すためにわたしは郵便局を訪れた。これでようやく、スタートラインに立てたような気がする。夢を叶えることに一生懸命な今は、クリスマスにイルミネーションを一緒に見に行くような相手はいないけれど。
目標のために邁進する日々は、とても充実している。留学したら何をしようか、次はどんな小説を書こうか。まだ見ぬ世界にわたしは恋焦がれている。
舵を取って、わたしは船頭に立つ。捨てることのできた今なら、どんな困難にも立ち向かえる気がする。
これから待ち受けている冒険に、わたしは心を躍らせた。