2023年6月に私は母になる。
妊娠が分かったのは、昨年11月。
転職先への入社まで残り半月を切った頃だった。
生理予定日から10日経っても、生理が来ない。
生理はほとんど予定通りに来るし、生理前の体調変化も必ずあるのにそれすらない。
その代わりにあったのは、胸焼けのような少しの気持ち悪さ。
「おかしいな……」
ちょうどこの頃、仕事もかなりハードで疲れが溜まっていた為、ストレスで遅れているのだろうとしか考えていなかった。

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妊娠など全く予想もしていなかったが、妊娠検査薬を使おうというあるキッカケがあった。
健康診断だ。
健康診断では、胸部X線のレントゲン検査があった。
万が一妊娠していたら、お腹の子に影響を与えてしまう。
健康診断の前日、遅くまで仕事を終えた後、夫が最寄り駅まで迎えにきてくれた。
その際に、検査薬を買う旨を伝えた。
迎えにきてもらった帰りに薬局に寄り、「万が一のためだから〜(笑)」と夫と2人して妊娠の疑いを持つことなく帰宅。
妊娠検査薬の使用は朝一番が良いとされていた為、健康診断当日の朝検査することにした。

翌朝さっそく検査薬を使うとすぐに反応が出た。
『陽性』
私は思いもしない結果に固まってしまった。
真っ先に頭に浮かんだことは、「どうしよう……」。
今思うとお腹中には非常に申し訳ないことを思ってしまったと感じる。
私の頭にこう浮かんでしまったのは、自分に育児が出来るかどうかという不安ではない。
経済的理由だった。
その金銭的理由というのも私たち夫婦のことではなく、私の実家のことだ。

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私は母子家庭で育ち、結婚して家を出た後も毎月5万円を母へ仕送りしていた。
私には弟もいるが、まだ遊びたい盛りであまり頼りにならない存在だった。
そんな母への仕送りが出来なくなってしまうことに私は不安を感じたのだ。
ましてや次の転職先が決まっている状態での妊娠判明であった為、雇用してもらうことも間違いなく難しいという頭があった。
つまりどういうことかというと、この11月半ばで無職になることが決定するということだった。

正直、私のこの金銭状況の中で、お腹の子を産んでも良いのか迷いがあった。
それらを正直に夫にも話をした。
夫は自分の会社の上司、人事や労務の人たちに掛け合ってくれ、色々な話を聞いてきてくれた。
その上で夫がかけてくれた言葉が私を救った。
「この子を大切に育てていこう」
私が働かない間の仕送りは旦那が受け持ってくれるという。
私に金銭的な心配は一切しなくて良いという夫に、感謝の気持ちや行動をどれだけ示そうとしても示し切れない。

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その話し合いの後、お互いの親に報告。
想像以上に喜んでくれたことに涙が止まらなくなった。
周りの支えを大切にしながら、お腹の子を大切に育てていこう。
この時安心して、ようやく心の底から母性が芽生えた瞬間だったと思う。

そして決まっていた転職先はというと、やはり雇用は難しいとのことで私は無職となった。
こうなったからには、お腹の子をしっかり守り抜き、今年の6月に愛で溢れる歓迎をしたいと思う。
夫、母、義母、そして産まれて来てくれる子や支えてくれる人々を大切にし、2023年中に私の新たな職を見つけることを目標に新たな生活のスタートを切ると宣言する。