生まれてから社会人2年目の冬まで、私はふるさとを離れたことがなかった。
大好きな町であり、ちょっとだけ反抗心も抱いていた町。
ふるさとを離れた今だからこそ、感じていることもある。

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私が生まれ育ったのは、湘南と呼ばれる神奈川の海に面した町。
聴くと海沿いをドライブしたくなる国民的バンドが生まれた町としても有名。
小学生の頃の夏休みは、週2で父と自転車で海に行って、毎年真っ黒に日焼けしていた。
ただ、私は小さい頃から運動が大の苦手で、マリンスポーツも例外ではない。
泳ぐことができないわけではないけれど得意でもなかったので、海に行ってもただ浮き輪で浮いてぼーっとしているだけ。
その時間が好きでよく海に行っていた。

高校生の頃は、体育祭の打ち上げで海に行ってみんなで花火をしたり、部活帰りに海で遊んでから帰ったり、なんてこともしていた。
私が通っていた高校は特にあのバンドの曲を多用する学校で、体育祭はあのバンドの夏の定番ソングを浴衣で踊ったり、卒業式でもあの曲が流れて涙したり、今でもあのバンドの曲を聴くと必ず高校時代を思い出すほど沁みついている。

高校まではずっと地元の学校に通っていたため、友達も多くが同じ町か近隣の町の人。
似たような環境で育ってきた人としか関わることがなかった。
それが大きく変わったのが、大学生になった時だった。

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大学は都内の大学に通い、全国各地で生まれ育った人たちが集まっていた。
もちろん、自己紹介をするときは「○○ちゃんはどこ出身?」という会話が定型文。
地方出身の人だったら、「そこってあれが有名だよね!」といった会話で盛り上がるけれど、私の出身は所詮神奈川。
特に盛り上がる話題もないだろうと思っていたため、出身地を聞かれるのが少しだけ歯がゆかった。

しかし実際は思っていた反応とは少し違った。
私の出身地を伝えると、「え、私もサーフィンやるよ!」とか「最近SUP始めたんだ!」と言われる。
別に私はサーフィンなんてやったことないし、SUPなんてもってのほか。
湘南に住んでいるというだけで、マリンスポーツに精通していると思っている人がすごく多いということに気が付いた。
私は声を大にして言いたくなった。
地域に対する固定観念を持たないでくれ!
そこから少しだけ、私の中で地元への反抗心が芽生えてしまった。

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前髪をかき上げる、いわゆる“かき上げ女子”がSNSにアップする海で撮った水着の写真。
それを見ると、「あー、湘南っぽさ出してるなあ」と思ってしまう。
どんな髪型をしようとどこで何をしようと自由だし、海の近くに住んでいれば海に行くのは当たり前のこと。

けれど、その“湘南っぽさ”になんとなく嫌気がさすようになってしまった。
だから私はその湘南っぽさをいかに出さずに振る舞うかに奮闘していた。
今思うと本当にしょうもないことだけれど、ふるさとによる偏見を持ってみられることに反抗してしまっていた。

そんなことを思いながらも、社会人になっても実家から都内の会社に通っていた。
しかし社会人2年目の冬には、都内の会社に通うのがしんどくなり、実家から離れて一人暮らしを始めた。
生まれて初めてふるさとを離れて暮らし始めた。
と言っても電車ですぐに帰れる距離の場所に引っ越したので、多い時は月2回のペースで地元へ帰っている。

そして私は、ふるさとから少し離れてみることで、ふるさとへの思いが変化したことに気付いた。
反抗心は消え、ふるさとのことが大好きになっていた。

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たまにふるさとへ帰ると、家族や友人と一緒に色んなお店や場所に行く機会が多く、それまでは見えていなかったふるさとの良いところに目がいくようになった。
程よい自然に囲まれつつ、生活を送るうえで不便さを感じることはない。
どこのお店の店員さんもお客さんも、すごく温かみのある人がたくさんいる。
心落ち着く場所がたくさんある。

こんなに居心地良く感じる場所は他になかった。
ああ、私はこの町が大好きなんだなと感じた。

最近は、将来子どもが出来たらこの町に住みたいな、とまで考えるようになった。
なぜなら、今思うと私はこの場所で生まれ育ったことがとても幸せだったから。
自分の子どもにも幸せな環境を与えられるような大人になりたい。