「寒い、寒い」と小走りで車に向かったあの日。
アウトレットパークの駐車場で、車内が暖まるまでじっと待っていたとき。
「私、こうやってまた誰かを好きになることはないと思っていたんだよね」とぼそっとつぶやいた私。
そんな私の昔の恋愛話を聞いて、泣いてくれた今の恋人に、このエッセイを捧げます。

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愛おしいあなたへ。

あなたと出会う前に、私は当時付き合っていた恋人に、手紙で振られました。
彼の家に置く観葉植物を探しに行ったのが最後のデートとなり、カフェでブドウのパフェを食べているときに、手紙を渡されました。
元恋人は北海道の出身で、私は「北海道で大雪!」というニュースを目にするたびに、なぜか少し心が疼きます。
私がプレゼントした、ハンドドリップ器具を使って、元恋人は今週末もコーヒーを淹れているのか、たまに気になることがあります。そのコーヒーを私が飲むことはもうありません。私があげた器具を使って、今の彼女にコーヒーを淹れているのでしょう。
皮肉にも、今私を大切にしてくれるあなたはコーヒーを飲まない人で、元恋人はコーヒーが好きな人でした。
あなたと出会って一緒に過ごすようになってから、コーヒーを飲む機会やコーヒーが美味しいお店に行く機会が減ったことに、少し感謝しています。元恋人と一緒に行ったコーヒー店に罪はなく、とても香りが良い美味しいコーヒーが飲めるお店ですが、そのコーヒーの香りは、彼からの別れの手紙を思い出させるからです。

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決してきれいとは言えない字で書かれた、別れの手紙は、破り捨ててしまいました。
それでも、まだあの手紙の内容を覚えています。
私への感謝を綴ってくれた手紙でした。ある2行を読むまでは。
「俺の子どもを産みたいと言ってくれる彼女を選んだ」
「(かおりんが)男友達と出かけるときの言い方が、隠し事をされているようで、嫌だと感じた」
元恋人からのこの言葉は、私が今まで付き合った恋人からかけられた言葉のなかで、一番深く私を傷つけました。
「あなたの子どもが産みたい」と言えない20代女性は、恋人失格なのでしょうか。
もう誰かを好きになることに疲れてしまったと思ったくらいです。
そもそも私が彼女であって、元恋人が選んだ相手の女の子は、言い方は悪いけれども彼の二股相手。彼の職場の同期。
私が高校からの男友達と2人で出かけようが、友情関係を貫いているなら問題ないのであって、身体の関係だけでは飽き足らず、心まで他の女の子に捧げてしまった男に言われる筋合いはない、というのが私の本音です。

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あなたは、私のことを、真面目で包容力があって、何を話しても受け止めてくれる安心できる人だと、言ってくれます。いいお母さんになりそうだと。
だけれど、私には元恋人の子どもを産み、彼と一緒に子育てをするという未来が想像できませんでした。
好きな人なのに、彼の顔に似た子どもが生まれてきたら、「かわいい、愛おしい」と思える自信がありませんでした。どこが嫌だったのでしょうか。
好きな人なのに、子どもを産みたいとは思わなかった私は、どこか壊れているのか、ひねくれているのかと思っていた時に、あなたに出会いました。

あなたはいつも、「答えたくなければ、答えたくない、記憶にないって言ってね」と、必要以上に詮索しないですよね。そこが心惹かれた部分でもあります。
誰にでも、「それ以上詮索してほしくない、隠したい」話があることを理解しているあなただからこそ、私は、あなたが嫌だなと思う話題はそれ以上聞かず、あなたも同様に私にあまり質問してこない話題がありますよね。
隠しているわけではなく、ただ避けているだけで、それでも私たちは仲良くやっているのです。

英語ができるあなたが、娘には英語の発音ルールであるフォニックスを教えたいと言っても、身長が平均的なことが気になるあなたが、お茶目な顔で「高身長な息子を産んでね」と笑って私に言ってきても、嫌だと思うこともなく、疑問を感じることもなく、ただ笑って「そうだね、いいよ」と言えるくらい、私の心は健康になりました。
ありがとう。

かおりん