電車を降りると、辺りはすっかり真っ暗だった。冬は日が暮れるのが早い。駅から出ると冷たい風が吹きつけ、思わず肩を引き上げた。
小さい頃から、寒いのも暗いのも大嫌いだ。少し離れたところに見えるコンビニの明かりに「肉まん食べたいなあ」と思い、ふと、高校生の自分を思い出した。
◎ ◎
高校一年生の冬、私には思いを寄せている人がいた。私も相手も部活に参加しており、冬の時期は、部活が終わる時間になるとすっかり日が落ちて真っ暗になっていた。その寒くて暗い中を、私は相手が校舎から出てくるのを待った。そして偶然を装って一緒に帰るのだ。
それを毎日のように繰り返した。暗いのも寒いのも大嫌いなのに、全く苦だとは感じなかった。
流石に偶然ではないことに、相手も気づいていたのではないだろうか。私はそれでもよかった。むしろ気づいてほしかった。
帰り道の途中にはコンビニがある。「言おうかな、どうしよう」。そう考えているうちにいつも通り過ぎてしまうコンビニが。
ある雪が降った帰り道、雪を言い訳にして私はついに言った。
「寒いね。肉まんとか食べたくなっちゃうなあ」
一緒に食べようよ、とまで言う勇気はなく、相手の反応を窺った。返ってきた相手の返事は「そうだよねえ」。それだけ。え、この流れで?
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ショックだったが、いや、ちゃんと言葉にしなかった自分が悪いのだと反省。数日経った別の日に私はまた言った。
「温かいもの、食べたくなるよね。肉まん、一緒に食べない?」
今度はしっかり言葉にした。自分のストレートな物言いに恥ずかしくなって下を向いた。
「肉まん、この前も言ってたよね。そんなに好きなの?」
唖然。全く伝わっていない。
違う。私が好きなのは、肉まんではなくあなたなのだ。一緒においしいものを食べるという時間を共有したいの。肉まんを食べるという口実で一緒にいる時間を延ばしたいの。
これも全て声に出して言わなければならなかったのだろうか。言えるわけがない。
ああ、これは脈がないのだ。吹きつける冬の風がより一層冷たく感じた。私と彼が一緒に肉まんを食べる日は来なかった。
冬と一緒に私の恋も終わった。はずだった。なんとその春、その彼から告白されたのだ。
終わったと思っていた私はびっくり。絶対に脈なしだと思っていたのに。
私の肉まんの勇気はなんだったのだろうか。一緒に食べてくれてもよかったじゃないか。肉まんが苦手ならあんまんだって、なんだってよかったのに。その話を蒸し返すのもなんだか気が引けてしまって、彼に肉まんの話は持ちかけていない。
あの時あなたはどう思っていたの?私のことを「やたら肉まんが好きな女」だと思っていたのだろうか。
◎ ◎
そんな青春の思い出を、5年以上経つ今も、凍えるような寒い日にはつい思い出してしまうのだ。ちなみにその彼とはお付き合いをしたが、一緒に肉まんを食べることはやっぱりなかった。
若い自分の健気さと冷たい風に身を震わせ、肉まんは買わずに帰路を行く。