「都、18歳以下の子どもに月5,000円給付」
「0~2歳の第2子の保育料完全無償化」

テレビから流れるこのニュースを見て、私の母は、
「子どもばかり支援しても、ね~。年寄りも支援してほしいよ」
「私が子育てしてた時は国や東京都からこんなにお金もらえなかったのにね~」
と不公平感を口にしていた。
「お金だけあげても、社会全体が変わらない限り、そんな少子化対策なんて意味ないと思うけれどね」と私は言いたかったけれど、それは心の中にしまっておいた。
「産みたくない」と思っても変人扱いされない社会、「産みたいけど」と思いとどまってしまうよな、お金やキャリアとの両立の悩みがなくなる社会、「産みたい」と思って安心安全に産める社会、になってほしいと心の中では思っているけれど、表向きは発言することなく、大人しくしている。

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両親は、国や自治体の子育て支援に不満があるというわけではないだろうし、3歳の孫がいる祖父母として、かわいい孫娘にとって良い社会になってほしいと思っているにちがいない。
ただ子育てのためにキャリアを捨てた母は、自らが子育てに奮闘していた時期に孤立無援だったことを振り返ると、国や自治体がこぞって子育て世代を支援しようとしている現状に、少し嫉妬しているのかもしれない。
私たちの親世代には、結婚すれば男性は大黒柱としてがむしゃらに働くのが当たり前という価値観が根強くあるのだと思う。
そもそもお金が稼げなければ家族も養えないし、お金がなければプライベートのプの字もないという考えがあったのだろう。

私の父は、私からすれば、働くことが第一優先という、昔ながらの頑固親父だ。
娘の世話は、すべて母に任せていたからこそ、子どもが3歳にもなれば、今日のお昼に何を食べたのか、保育園で誰と遊んだのかもきちんと覚えていて、色んな話ができるようになるということを、すっかり忘れていた父は、孫娘に会うたびに、「もうこんなことができるようになったのか、すごい」とべた褒めしている。
「3歳だから、当たり前でしょ、逆にできないと心配だよ」と冷静に言う私を横目に、孫娘を溺愛している父だが、子どもの面倒が見られるのは15分間が限界らしく、限界を迎えると「ママのところに行ってきな~」と他の大人にバトンタッチする。

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そう、孫だ。私にも子どもを産むときがくるのだろうか。
正直、子どもを産みたいと思う気持ちはあまりない。
だけれど、声を大にしてはいえない。
母に、ぼそっと「私の人生を犠牲にしてまで子ども産みたくない」と言ってしまった時、「そんなこと言わないの」と一瞥された。

姉が子どもを出産したときも、憧れの気持ちはこれっぽっちもなかった。
産みたくなったら産めばいいし、産みたくなかったら産まなければいいと思う。
女性として、妊娠しやすい年齢が決まっていて、ある年齢を越えると妊娠の確率がぐっと下がるということも分かっているし、妊活をしているカップルもいるし、不妊の原因は女性側だけではなく男性側にある可能性もあると知っている。
「産みたくなったら産めばいい」と簡単に言えるものではないと分かっているけれど、それでも私はなぜか「子どもは絶対に産みたいです」宣言はできないのだ。

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姪っ子は3歳ながら私を慕ってくれて、一緒に遊びたいと言ってくれるけれども、心の底から可愛いとは思えなかった。
他人の子どもと、少しだけ血がつながっている姪っ子に対する気持ちは同じくらいで、姪っ子だからといって特別な感情が生まれるかと思ったらそうではなかった。
正直、私は姉の旦那さんが少し苦手で、なぜ姉がこの男性と結婚したのか、全く理解できない。
きちんと仕事もしていて、真面目に生きている男性だと思うけれど、話が通じないと感じることの回数の方が多く、私が苦手とする人間の遺伝子が、目の前でアナ雪のエルサになりきって遊ぶ姪っ子にもあるのかと思うと、残念な気持ちになる。

私は、子どもは好きだから、中学校の時の職場体験では保育園を選んだし、大学生の頃は子どもと関わるボランティアや塾講師のアルバイトをしていた。
教員免許さえ持っている。だから、子供の発育については一通り基本的な座学は勉強したつもりだけれど、産みたいかと言われるとそれは違った。

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20代前半。結婚への憧れも、焦りもない。
「結婚してもいい、結婚しよう」と思ったことがあったし、その人の名字になるつもりだった。その人との子どもを産み育てるつもりでいたけれど、家族も友人もみな「かおりんはもう結婚するでしょ」と思っていた矢先、その恋愛があっけなく終わったことを経験し、結婚は「したいと思ったらすればいいし、しなくてもまぁいいや」と思うようになった。
子どもを産まなくても、きっと私は後悔しない気がする。
それはまだ若いから言えることなのかもしれないけれど、今20代前半で、恋人もいて、仕事もそれなりに順調で、あえて「足りない」という表現を使うなら、あと「結婚」と「出産」が足りない。

ただ、誰にも言えないけれど、子どもを産み育て、母になることへの憧れがない以上、例えば5年後、30歳にさしかかって、突然何かの拍子に「やっぱり子どもが産みたい」と思うこともない気がする。
「子ども、かわいいけどね。産みたいとはあまり思わないんだよね」と言う女性が、女性としての役目を果たしていないと言われない世の中になってほしい。
そして私は、「そんなに子ども産みたいとは思わないんだよね」と素直に打ち明けられるような相手と、人生を共に歩むことができたら、きっといつか子どもを産むときも来るのかもしれない。